腰椎の感染症に、腸腰筋膿瘍というものがあります。
しかし、なかなか聞きなれない腸腰筋という言葉、どの部位なのかもピンときませんよね?
そこで今回は、腸腰筋膿瘍(読み方は「ちょうこつきんのうよう」英語表記で「Iliopsoas muscle abscess」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療
を実際のCT画像やMRI画像と共に解説いたします。
腸腰筋膿瘍とは?
腸腰筋は、骨盤周りの筋肉のことで、腸骨筋・大腰筋と同様に股関節の動きを司る筋肉です。
その腸腰筋が感染することで、膿瘍(膿(ウミ)が溜まること)を形成する疾患を腸腰筋膿瘍といいます。
腰椎の感染症は他に、胸腰椎・腰仙椎を合わせると脊椎感染症の60〜70%で最多となります。
中高年以降の男性に好発します。
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腸腰筋膿瘍の原因は?
疾患に合併するもの・消化器疾患に合併するもの・感染菌によるものとがあります。
基礎疾患に合併
基礎疾患をもつ易感染性宿主(糖尿病など)に起こることが多くなっています。
消化器疾患に合併
- 腎臓や腎周囲の炎症の波及
- 骨盤内炎症
- 虫垂炎
- 結腸憩室炎
- 大腸がん破裂
- Crohn病
など消化管の炎症に合併することもあります。
感染菌
感染としては、ブドウ球菌・連鎖球菌・結核菌などが起因菌となります。
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腸腰筋膿瘍の症状は?
- 疼痛(腰から股関節にかけて)
- 発熱
- 腹痛
- 倦怠感
- 股関節の内転・屈曲
- 歩行困難
などの症状があらわれます。
とくに疼痛や発熱は、初期からあらわれるため、特徴的な症状ともいえます。
また、股関節の運動をすることによって、疼痛がひどくなり、症状がひどくなると歩行が困難となることもあります。
股関節が内転・屈曲を呈することを、腸腰筋肢位・股関節拘縮位(psoas position)といいます。
腸腰筋膿瘍の診断は?
腰背部に疼痛や発熱を伴う原因不明の感染症がある場合は、腸腰筋腫瘍を疑いますが、詳しい検査として、血液検査・単純X線・CT/MRIなどを行い診断します。
血液検査
- 白血球が増多
- 赤沈亢進
- 炎症性反応(CRP)陽性
など、急性炎症が確認できます。
単純X線
腸腰筋陰影の消失や腫大像が見られます。
CT/MRI
- 腸腰筋腫大像
- 膿瘍の広がり
を確認することができます。
造影剤を用いた検査で膿瘍は周囲の壁のみに造影効果を認める点が重要です。
症例 50歳代女性 発熱、両側腰の痛み、糖尿病あり。
腹部造影CTにおいて、両側の腸腰筋に辺縁に造影効果を認める液貯留を認めています。
両側の腸腰筋膿瘍と診断されました。
腰椎MRI画像において、STIRの矢状断像においてL4/5に異常な高信号を認めており、椎間板炎を疑う所見です。
L4椎体の背側に膿瘍形成が疑われます。
左側のSTIRの冠状断像では、L4/5の椎間板炎から腸腰筋に沿って炎症が波及している様子がわかります。
炎症が波及した結果、膿瘍を形成したと推測されます。
これらを合わせて椎間板炎からの両側腸腰筋膿瘍と診断されました。
腸腰筋膿瘍の治療は?
- 安静
- 抗菌薬の投与
- ドレナージ
起因菌を見つけることが重要で、それにあった適切な抗菌薬を投与します。
軽症の場合(膿瘍が軽度)、安静と抗菌薬の投与のみで改善しますが、改善が見られない場合・膿瘍の大きい場合にはドレナージをおこないます。
局所麻酔を行い、超音波やCTを用い位置を確認し、皮膚から膿瘍に向けて針を穿刺(針を刺し、膿瘍の液体を採取)します。
穿刺後、抗菌薬投与を続けながら、膿瘍から皮膚の外へチューブを留置し、膿が排出し終わるのを待ちます。
また、ドレナージによって、起因菌を突き止めることも可能です。
症例 50歳代女性 上の症例と同一症例です。
両側の腸腰筋膿瘍に対して、ドレナージ術が施行されました。
腹部CTのスカウト像では右側に2本、左側に1本のドレナージチューブが留置されていることがわかります。
ドレナージにより膿瘍は排膿されました。
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P337
最後に
- 腸腰筋が感染することで、膿瘍を形成する疾患
- 疾患に合併するもの・消化器疾患に合併するもの・感染菌によるものとがある
- 疼痛や発熱は、初期からあらわれるため、特徴的な症状
- 血液検査・単純X線・CT/MRIなどを行い診断
- 安静・抗菌薬の投与・ドレナージによる治療がある
重症化すると、膿瘍が血管内に侵入して、最悪な場合死に至ることもある怖い疾患です。
適切な処置を受けることが重要となりますが、内科や外科などの科で初診を受けると、他の疾患とも間違えやすく、診断が遅れることもあります。
そのため、腰背部の疼痛や発熱や倦怠感を伴う症状がある場合には、整形外科を受診することも考えましょう。