滑液包の急性または慢性の炎症に、滑液包炎というものがあり、滑液包炎は
- 腸恥滑液包炎
- 転子滑液包炎
- 坐骨滑液包炎
などが一般的ですが、今回はこの腸恥滑液包炎(読み方は「ちょうちかつえきほうえん」英語表記で「iliopsoas bursitis」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
を画像やイラストと共に分かりやすく解説いたします。
腸恥滑液包炎とは?
まず、滑液包とは、滑液を含む小嚢で、皮膚・筋肉・腱・靭帯などと摩擦を受ける部位に多く、肩関節・肘関節・膝関節・足関節・股関節・骨盤・アキレス腱などにも生じます。
滑液包炎とは、関節の周りにある滑液包に炎症が生じることによって、滑膜炎を起こす疾患です。
その中でも腸恥滑液包炎は、腰の前方(恥骨の前側)にある腸腰筋と大腿骨頭の前側の間にある腸恥滑液包が炎症を起こした状態のものをいいます。
腸恥滑液包は正常人の15%において、股関節と交通しており、股関節の圧が高くなるような病態において、ここに関節液がたまり、膨隆します。
CTの横断像で見てみますと、おおよその位置関係はこのようになります。
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腸恥滑液包炎の原因は?
- 関節を慢性的に使いすぎたこと(酷使)
- 外傷
- 痛風
- 関節リウマチ
- 感染症(黄色ブドウ糖球菌)
- 変形性関節症
- 結核性・化膿性股関節炎
- 色素性絨毛結節性滑膜炎
- 滑膜骨軟骨腫症
などが原因となります。
腸恥滑液包炎の症状は?
- 疼痛
- 圧痛
- 関節可動域制限
- 腫脹
などの症状が現れます。
細菌感染が原因の場合は、局部が発赤を伴うこともあります。
足の付け根に位置するため、機械的な引っかかりを感じ、歩行障害が出ることもあります。
腸恥滑液包炎の診断は?
臨床所見の他、滑液包穿刺や画像検査を行い診断します。
臨床所見
痛みや腫脹、圧痛などを確認します。
そこで腸恥滑液包炎を疑うと、次の検査に移ります。
滑液包穿刺
非感染性なのか、感染性なのか、鑑別は重要で、そのために滑液包に針を刺し、起因菌の特定を行います。
画像検査
画像検査では、CTやMRIなどによって、滑液包の液体貯留を確認し、他の疾患との鑑別を行います。
症例 70歳代男性 スクリーニング
腹部造影CTにおいて右の腸骨筋及び大腰筋の背側を中心に液体貯留を認めています。
腸恥滑液包への液体貯留を疑う所見です。
骨盤MRIのT2強調像の横断像においても同様の所見を認めており、この2つの液貯留腔はつながっていることがわかります。
(T2強調像で高信号(白い)は液体貯留を示唆します。)
骨盤MRIのT2強調像の冠状断像において大腰筋腱の後ろ側にこの液体貯留を認めていることがわかります。
腸恥滑液包への液貯留と診断されました。
症状はなく保存的に加療されています。
腸恥滑液包炎の治療法は?
保存療法もしくは、手術療法を選択します。
保存療法
- 安静
- 薬物療法(NSAIDsの投与・鎮痛薬の投与・ステロイド薬の局所注射)
- 穿刺・排液
などを行います。
また、原因疾患の治療やテーピングで固定した上で可動域訓練(ストレッチング)を行うこともあります。
手術療法
保存療法をおこなっても改善が見られない場合や、再発予防(慢性的な酷使や原因疾患が改善しない場合などに再発するケースが多い)のために、手術療法を選択することもあります。
手術方法としては、滑液包切除術があります。
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P204・205
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P158・159
最後に
- 腸恥筋と大腿骨頭の前側の間にある腸恥滑液包が炎症を起こしたものを腸恥滑液包炎という
- 慢性的な酷使・リウマチや痛風・外傷・原因疾患があるために起こる
- 疼痛や圧痛、可動域制限や腫脹が見られる
- 起因菌の特定、他の疾患との鑑別が重要
- 保存療法で改善しない場合や、再発予防として手術を選択する
保存療法で改善したと思っていても、繰り返し再発するのがこの腸恥滑液包炎です。
特に慢性的な酷使が原因の場合は、日頃の動き・姿勢などから注意し再発予防に努める必要があります。