胃は、袋状で位置や形状が変化する消化管ではありますが、通常はどの辺りにあるのかご存知ですか?
「胃が痛む」
などと、よく耳にはしますが、胃の病気などの問題では、どの場所がどう痛むものなのでしょう?
あなたが今、胃と思って押さえている場所は、本当に「胃」で合っているのでしょうか?
今回は、胃(英語で「stomach」ドイツ語で「magen」)について
- 場所
- 痛み
などを、図とともに解説したいと思います。
今回実際のレントゲン画像やCT画像を用意し、胃の位置を見ていただきますので、わかりにくい胃の場所が一目瞭然でおわかりいただけると思います。
ではいきますね!
胃の場所を図で解説!
腹部の場所をあらわすときにしばしば腹部を下の図のように7つに分割します。
医療の現場では、これによりお腹が痛いときに具体的にどこが痛いのかを問診、診察することで痛みの原因となる病気を絞っていきます。
そして、ここに胃の大まかな場所を描いてみるとこのようになります。
このように胃は腹部の複数の領域に渡って存在していることがわかります。
大まかには、手を胸の下に当てた、みぞおち付近と思って頂いたら、わかりやすいかと思います。
上の図のように、みぞおちの近くで、みぞおちの少し下に胃は位置しています。
症例 80歳代 女性
この場合は、通常よりも胃がかなり拡張している状態ですので、本来の胃の位置よりはやや下の方にも進展しています。
ただし、胃のおおよその位置を理解するには良い画像と言えますね。
そして、見ていただけるとおわかりのように、胃と一口に言ってもちょっと複雑な形をしていますね。
胃の痛みを理解する上で、胃の解剖を理解しておくことは重要です。
というのは、胃痛の原因で最も多い、胃潰瘍や十二指腸潰瘍は胃(及び十二指腸)の中でも起こりやすい部位があるためです。
胃の解剖、部位の名前は?
胃は、上の図のように
- 胃底部(いていぶ)
- 胃体部(いたいぶ)
- 幽門部(ゆうもんぶ)
の3つに大きく分けられます。
この上に位置する胃底部は食道に、下に位置する幽門部は十二指腸に繋がっているため、比較的固定されていますが、中心に位置する胃体部はとくに可動性があります。
食道と繋がっている部分を噴門(ふんもん)といい、この噴門口は正中線よりも少し左側にあり、第7助軟骨の胸骨付着部よりも約2cm左側にあります。
そして十二指腸と繋がっている部分を幽門(ゆうもん)といい、ここは空虚時や背臥位では、正中線の1~2cm右側にあり、第1腰椎の右前方に位置します。
胃の場所を実際のCT画像でチェック!
まず食道から胃へと変わった部位である胃の上の方(胃底部レベル)をチェックしましょう。
このレベルでは肝臓の後ろ側、脾臓(ひぞう)の前側に胃が位置していることがわかります。
また背骨である椎体よりももちろん前に胃があることを確認しましょう。
次に胃の真ん中らへんである胃体部のレベルではどうでしょうか。
ここでは胃が先ほどよりも少し前の方に存在しています。
肝臓の後ろ側で脾臓の前側ですね。
最後に、胃が十二指腸へと移行する部位である、胃の幽門部のレベルを見てみましょう。
このレベルではたくさんの臓器が出て来ます。
肝臓や脾臓の他、膵臓や、腎臓、胆嚢が見えています。
また胃がお腹の中でもかなり前の方に位置していることがわかりますね。
また幽門を経て胃は十二指腸に以降しますが、十二指腸(球部)の様子もよくわかりますね。
胃に痛みが出る病気や場所は?
胃(や十二指腸)に病変があり痛みの出る病気には、
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 急性胃炎、慢性胃炎
- 消化管穿孔(胃穿孔、十二指腸穿孔)
- 機能性ディスペプシア
などがあります。
中でも頻度が高いのは、胃潰瘍・十二指腸潰瘍です。
そして、この胃潰瘍・十二指腸潰瘍には下の図のように、起こりやすい部位があります。
胃潰瘍は胃角部(中でも小彎部)に起こりやすく、十二指腸潰瘍は十二指腸球部と呼ばれる部位に多いのです。
ただし、胃潰瘍の起こりやすい部位は歳をとるにつれ上(噴門部側)に上がっていきます。
ですので痛みが出るのは、心窩部(しんかぶ)・みぞおち辺りであることが多いです。
この付近の痛みを総合して、「胃痛」ともいいます。
しかし、最初に説明した通り、臍付近まで胃が下がることもあるため、この痛みの場所にも変動性があります。
そのため、時に胸の中心・胸の下・臍の上、臍付近と、訴え方が異なることもあります。
この痛みは、通常は無症状でも、押すとこたえるように痛む「圧痛」として感じることも多くあります。
胃の場所は一定ではない!胃変形もある。
ところで、「正常な場合」と表現したのは、胃の位置は体位や蠕動などで変化するためで、人によっては正常な位置にないことも度々あります。
その正常な位置にないというのは・・・「胃下垂」の場合があり、その際には、骨盤辺りまで胃が下がった状態となります。
また胃変形と呼ばれるものに牛角胃(ぎゅうかくい)、瀑状胃(ばくじょうい)があります。
ともに胃のバリウム検査で指摘されることが多く、病的ではなく正常異形と呼ばれます。
牛角胃(ぎゅうかくい)
牛の角のような形をしており、太った体型の男性に多いとされます。
胃全体が持ち上がり、管腔がやや細く、胃の小彎及び大彎が短い点を特徴とします。
ただし、スキルス胃がんで見られるような伸展不良や小彎の短縮といった所見は見られません。
瀑状胃(ばくじょうい)
瀑状胃(ばくじょうい)は胃が椎体の上で横たわりブリッジをしているかのように胃底部が後方に倒れて、体部が前方に偏位し、胃が水平に近い状態に回転した状態です。
バリウム検査の際に、飲んだバリウムが胃体部などにすぐに流れずに、胃底部(穹窿部)がいっぱいになるまで溜まり、その後、瀑布(滝)のように一気に流れる様子から名前がついています。
参考文献:
病気がみえる vol.1:消化器 P82・83
消化器疾患ビジュアルブック P46・47
解剖学講義 改定2版P341・342
第4版 イラスト解剖学P320・321
これでわかる!人体解剖パーフェクト事典P162・163
レジデントノート Vol.15 No.8(増刊)2013 P187-188
最後に
胃の場所と、胃の病気の時に痛みが起こる部位についてまとめました。
ポイントは以下の通りです。
- 胃の場所は、みぞおち付近である
- 胃の噴門は、第7助軟骨の胸骨付着部よりも約2cm左側にある
- 胃の幽門は、正中線の1~2cm右側にあり、第1腰椎の右前方に位置する
- 胃の病気(とくに胃潰瘍)がある場合、心窩部やみぞおちあたりに痛みを生じることが多い
- 胃は動いたり、胃変形があるので、痛みの部位は典型的でないこともある
胃痛の訴え方は、それぞれ微妙に異なりますが、みぞおち付近の痛みは、胃腸科・消化器科を受診することをオススメします。