肘の外側が痛む、上腕骨の活動制限と行った症状がある場合、上腕骨外側上顆炎が考えられます。。
上腕骨外側上顆炎は、テニス肘や外側型野球肘とも言われ、スポーツに関連するケース(ただし5%以下)もあります。
今回は、この上腕骨外側上顆炎(読み方は「じょうわんこつがいそくじょうかえん」英語表記で「lateral humeral epicondylitis」)について
- 原因
- 症状
- 検査
- 治療
などについて、図(イラスト)や実際のMRI画像を用いてわかりやすく解説したいと思います。
上腕骨外側上顆炎とは?
下の図のように上腕骨の下側(遠位端)で肘付近の上腕骨小頭の外側にある隆起を上腕骨外側上顆と言います。
この上腕骨外側上顆には、前腕伸筋腱という筋肉が繋がっていますが、使いすぎることにより炎症を生じるものが上腕骨外側上顆炎です。
骨格筋の端が上腕骨に付着している部位(短橈側手根筋の腱付着部)に、ごく小さな断裂や変性が生じるために、上腕骨橈側(肘の外側)上顆に症状が現れます。
上腕骨外側上顆炎の原因は?
日常生活で手首の使いすぎによる発症が多くありますが、テニス肘や外側型野球肘という別名の通り、それぞれのスポーツが原因となることがあります。
ただし、スポーツに関係なく起こることの方が多いとされます。
テニス肘の場合
上腕骨外側上顆に繋がっている前腕伸筋腱などの変性(使いすぎ)によって発症しますが、不適切なラケットの使用やプレースタイルにも関係します。
スポーツに関連しない場合は、40〜50代の女性に多い特徴があります。
外側型野球肘の場合
野球の投球を行う際に、上腕骨小頭の軟骨下骨に圧迫と剪断裂が繰り返し加えられることで発症します。
野球少年に多く、関節面の軟骨化骨の骨化障害から一部が離れ、進行すると関節内遊離体となります。
上腕骨外側上顆炎の症状は?
安静時に痛みを伴うことはないものの、腕を使う動作で、肘の外側から前腕にかけて疼痛が出現します。
この疼痛は、
- 雑巾を絞る際(手首を背屈する動作)
- テニスのバックハンド
- 投球時・投球後
によく起こります。
しかし、進行すると可動域制限も現れ、日常生活でも痛みを自覚することがでてきます。
関節遊離体がはまり込むと、ロッキング症状といって、関節がうごかせなくなることもあります。
また、症状を放置したままでいると、将来的に変形性関節症をまねくことにもなりかねません。
上腕骨外側上顆炎の検査・診断は?
誘発テストや画像検査を行い、診断します。
誘発テスト
- チェアー(Chair)テスト
- トムセン(Thomsen)の手枝
- 中指伸展テスト
などによって実際に痛みを誘発し、確認します。
チェアーテスト
肘を伸ばした状態で、椅子を持ち上げさせ、痛みが出るかどうかを確認します。
トムセンの手枝
肘を伸ばしたままの状態でいる患者の手首を曲げようとし、それを患者が抵抗して手首を曲げまいとすることで、痛みが出るかどうかを確認します。
中指伸展テスト
肘と中指を伸ばしたままの状態で、中指を上からおさえ、その力に抵抗しようと指に力を入れた際に痛みが起こるかどうかを確認します。
レントゲン画像検査
X線において、肘を45°曲げた状態で撮影し、評価します。
- 透亮期・・・上腕骨小頭部に骨が薄く映る部分がある
- 分離期・・・骨片との間に透明帯が確認できる
- 遊離期・・・遊離体が見られる
とに分類されます。
MRI画像検査
MRI検査においては、上腕骨外側上顆部の伸筋腱起始部の変性や断裂が確認できます。
STIRや脂肪抑制T2強調像、T2*(スター)強調像において、伸筋腱起始部に異常な高信号及び腫大を認めます。
また接する外側上顆の骨髄に浮腫を認めることがあり、STIRや脂肪抑制T2強調像で高信号となります。
ただし、症状がなくても信号変化を認めることがあり、総合的に診断することが重要です。
症例 70歳代男性 右肘外顆の痛み。
右上腕骨外側上顆の伸筋腱起始部に信号上昇及び腫大を認めています。
右上腕骨外側上顆炎を疑う所見です。
また、外側上顆の骨髄に浮腫を疑う異常な高信号をSTIRで認めています。
症例 70歳代男性 左肘外顆の痛み。
左上腕骨外側上顆の伸筋腱起始部に信号上昇及び腫大を認めています。
左上腕骨外側上顆炎を疑う所見です。
症例 50歳代女性 右肘外顆の痛み。右肘を屈曲させると音がなるようになった。
右上腕骨外側上顆の伸筋腱起始部に信号上昇及び腫大を認めています。
右上腕骨外側上顆炎を疑う所見です。
またこの症例では、橈骨頭と上腕骨の間に入り込むように外側滑膜(synovia)ひだあり。
両者ともに肘の外側痛の原因となっていると考えられます。
上腕骨外側上顆炎の治療法は?
保存療法もしくは、手術療法が選択されます。
保存療法
- 安静
- ストレッチ
- 動作制限
- アイシング(スポーツ後)
- 外用薬(湿布)
- サポーター装着
- フォーム指導
- 投球過多の制限
- 薬物療法(副腎皮質ステロイド薬の局所注射)
などによって、症状が改善するのを待ちます。
手術療法
保存療法でも症状が改善しない場合や、スポーツ選手の場合、手術を検討します。
手術方法としては、
- 筋膜切開術
- 切除術
- 前進術
- 肘関節鏡視下手術
など様々な方法があります。
参考文献:骨軟部疾患の画像診断第2版 P210-211
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P266・267
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P155〜157
参考文献:100%整形外科P82
最後に
- 短橈側手根筋の腱付着部に、ごく小さな断裂や変性が生じるために炎症が起こり症状が出現する
- 使いすぎが原因となる
- 肘の外側から前腕にかけて疼痛や可動域制限が現れる
- 誘発テストや画像検査で診断する
- 保存療法で改善しない場合や、スポーツ選手の場合、手術を検討する
テニスや野球以外のスポーツでは、ゴルフもあります。
ゴルフも同じく、使いすぎが原因ですが、20〜60代に好発し
- 加齢による筋力低下
- 運動前のストレッチ不足
- 不適切なゴルフスウィング
などが発症要因となりますが、スポーツ以外でも肘関節の曲げ伸ばしを多く行う職業(運送業等・IT関係「パソコンのマウスやキーボード操作」)の方にも多く起こります。