外傷性により耳(中でも中耳)に問題が出る疾患のひとつに、耳小骨連鎖離断(じしょうこつれんさりだん)というものがあります。
耳小骨離断と呼ばれることもあります。
手術を含めた治療法なども気になりますよね?
そこで今回は、この耳小骨連鎖離断(じしょうこつれんさりだん「Ossicular discontinuity」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
などを解説したいと思います。
耳小骨連鎖離断とは?
耳小骨とは下の図のようにツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨からなり、これらは音を伝えるためにくっついています。
しかし、その連続性が失われることがあり、これを耳小骨連鎖離断(耳小骨離断)と言います。
耳小骨離断の原因は?
原因としては
- 耳かき中の外傷(直接性外力)
- 頭部外傷(介達性外力)
- 先天性 など
が挙げられます。
中でも原因として多いものでは、耳かき中に衝撃を受けたことで、鼓膜を突き破り直接耳小骨を損傷するケースです。
また、頭部に外傷を受けたことで、それが頭蓋骨へと衝撃が伝わり起こる場合や、先天性に離断していることも中にはあります。
これらは、その症例ごとに状態は異なるものの、
- 軽度なものでは、キヌタ・アブミ関節の離断のみの
- 重度なものでは、 耳小骨、とくににキヌタ骨の大きな変位のあるもの
などがあり、中には耳小骨骨折をきたしているものもあります。
耳小骨連鎖離断の症状は?
耳小骨連鎖離断の症状には、
- 難聴
- めまい
- 嘔吐
などがあり、とくに受傷直後より、障害を受けた側の難聴をきたします。
比較的高度な難聴であることが多く、中にはめまいや嘔吐を伴う場合もあります。
耳小骨連鎖離断の診断は?
症状や病歴・外傷歴を問診で確認することが重要です。
そして、
- 耳鏡観察
- ティンパノグラム
- 眼振検査
- CT検査
などを行います。
耳鏡観察
直接外傷を受けた後であれば、鼓膜穿孔など、何らかの所見が確認できます。
また、頭部外傷によるものであった場合、必ずしも鼓膜損傷を伴うとは限りませんが、鼓室内に出血を認めることが多くあります。
ティンパノグラム
典型例では、ティンパノグラムでAd型を示します。
しかし、耳小骨の可動性に制限がある場合には、A型を示すこともあります。
眼振検査
めまいや感音性難聴を認める場合には、内耳まで外力の働いた可能性があり、瘻孔現象の有無も確認します。
CT検査
離断した耳小骨を確認しますが、鼓室を解放しなければわからない場合もあります。
症例 40歳代男性 転倒で左側頭部打撲
側頭骨CTの横断像の画像です。
側頭骨に骨折線を認めており、乳突蜂巣には液貯留を認めています。
耳小骨を詳しくみてみましょう。
本来横断像(輪切り)では、耳小骨のツチ骨とキヌタ骨の位置関係はアイスクリームとアイスクリームコーンのようにツチ骨がキヌタ骨に乗っかっているような状態が正常です。
しかし、このCTをよく見てみると
耳小骨は連続性を追えず耳小骨の離断(ツチ骨とキヌタ骨)及び転位(ツチ骨が内側に転位している)を認めています。
つまり、上に乗っかっているアイスクリーム(ツチ骨)がアイスクリームコーン(キヌタ骨)から落ちてしまったような状態になっています。
耳小骨連鎖離断の治療法は?手術は必要?
治療として鼓室形成術が選択され、耳小骨連鎖を再建することになります。
受傷後早期に手術を行う必要があるのは、
- 外リンパ瘻を疑う際
- 顔面神経麻痺に対し顔面神経管開放術を選択する際
- 腰椎ドレーンを入れても止まらない髄液耳漏がある際
などで、通常は特別急ぐ必要はありません。
受傷3〜6カ月以降で、鼓膜所見の改善が確認された後に、手術を検討します1)。
参考文献:
STEP SERIES 耳鼻咽喉科 第3版P70
まとめてみた 耳鼻咽喉科P192
参考サイト:
外傷性耳小骨連鎖離断の手術 Surgery for Traumatic Ossicular Chain Discontinuation 八 木 聰 明
1)外傷性耳小骨連鎖離断の診断と治療 九州大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科学教室 松本 希
最後に
耳小骨連鎖離断について、ポイントをまとめます。
- 直接性外力・介達性外力・先天性などが原因で耳小骨を離断するものを、耳小骨連鎖離断という
- 受傷直後から難聴を伴う
- 症状・病歴・受傷歴などを確認し、耳鏡観察・ティンパノグラム・眼振検査・CT検査などを行う
- 典型例では、ティンパノグラムでAd型を示す
- 鼓室形成術により耳小骨連鎖を再建する
- 鼓膜所見の改善が確認された後に、手術を検討する
手術を行うタイミングは、それぞれ症状や状態によって異なります。
中には、手術をした後も難聴が残ることもあるので、主治医とよく相談の上、手術に臨むのがよいでしょう。