鰓弓は「さいきゅう」と読み、鰓は「えら」とも読みます。
今回はこの鰓弓(英語表記では「branchial arch」)について、
- そもそも鰓弓とはどんなものなのか
- 鰓弓はそれぞれどんな器官に変化するのか
- 鰓弓症候群とは
どんなものなのかということを、図とともに解説したいと思います。
鰓弓とは?
鰓弓の鰓は「えら」と読むと申しましたが、えらは魚類だけのものと思っていませんか?
実は、人間も受精してすぐの胚時期(胎生4週頃)に、えらができるのです1)。
この人間のえらには呼吸機能がないものの、その後頭頚部など、さまざまな器官の発生原基として重要となります。
そして、この人間のえらは咽頭部外側に対となる弓状の隆起として形成されます。
ここまでの説明でわかりましたでしょうか?
人間のえらであり弓状なので鰓弓と呼ばれるのですが、胎生4週頃にできる隆起性の構造体である人間のえらを鰓弓というのですが、別名では咽頭弓ともいいます。
鰓弓の形状は?
鰓弓は、咽頭部の外側に対となるように存在するといいましたが、頭側を1とし、1〜6までの番号で呼ばれる6つの隆起となっています。
しかし、人間では第5鰓弓が確認できません(実際には1〜4までは確認できます)。
また、このそれぞれの鰓弓は、
- 外側は鰓溝
- 内側は咽頭嚢
と呼ばれる陥門によって分けられています。
それぞれの鰓弓はどんな筋肉に変化する?
鰓弓は、三胚葉(内胚葉・中胚葉・外胚葉)成分をすべて含んでおり、顔面から頚部領域の骨(軟骨)・筋肉・動脈などの器官を形成します。
この鰓弓から形成される器官を、鰓性器官といいます。
第1鰓弓由来の器官
第1鰓弓由来の骨・軟骨としては
- 上顎から隆起したものは、上顎骨・頬骨など
- 下顎から隆起したものは、下顎骨・メッケル軟骨(アブミ骨・茎状突起)
などがあります。
また筋肉は、
- 咀嚼筋
- 顎舌骨筋
- 顎二腹筋前腹
- 鼓膜張筋
- 口蓋帆張筋
があります。
これらの筋肉には三叉神経(Ⅴ)が分布し支配します。
第2鰓弓由来の器官
第2鰓弓由来の骨・軟骨としては
- ラヘルト軟骨(アブミ骨・茎状突起へと変わる)
があり、また筋肉は、
- 表情筋
- アブミ骨筋
- 顎二腹筋後腹
があります。
これらの筋肉には顔面神経(Ⅶ)が分布し支配します。
第3鰓弓由来の器官
第3鰓弓由来の骨・軟骨としては
- 舌骨(体部)
があり、筋肉としては
- 茎突咽頭筋
があります。
この筋肉には舌咽神経(Ⅸ)が分布し支配します。
また、動脈は
- 頸動脈
があります。
第4・第6鰓弓由来の器官
第4,6鰓弓由来の骨・軟骨としては
- 咽頭軟骨
があります。
筋肉は、
- 咽頭筋群
- 内喉頭筋
- 口蓋帆挙筋
があり、これらの筋肉には迷走神経(Ⅹ)が分布・支配します。
血管は、
- 大動脈弓
- 肺動脈など
があります2)。
鰓弓症候群とは?
鰓弓はさまざまな器官に形成されていくといいましたが、この形成途中でなんらかの異常により発育障害が起き、形態異常となる疾患を鰓弓症候群といいます。
この鰓弓症候群は、奇形症候群ともいわれ、
- 下顎
- 耳
- 口
などに形態異常が出ますが、巨口症・舌の変形・中耳の異常(鼓膜や耳小骨など)が見られることもあります3)。
参考文献:
1)2)第9版 イラスト解剖学P17・18
参考サイト:
3)一般社団法人 日本形成外科学会
最後に
鰓弓について、ポイントをまとめます。
- 胎生4週頃にできる隆起性の構造体である人間のえらを鰓弓という
- 外側は鰓溝、内側は咽頭嚢という陥門に分けられ、第1〜第6鰓弓まである(人間の場合、第5鰓弓は確認できない)
- 形成途中でなんらかの異常により発育障害が起き、形態異常となる疾患を鰓弓症候群という
母親の胎内では生まれてからよりももっと速いスピードで1日1日と進化をとげ、人間の形となって生まれてくるわけですが、人間の形状となるまでにいかに大事な成長を遂げているのかということがわかりますよね。