門脈(もんみゃく)は肝臓の外および肝臓の中に存在する血管です。
主に腸管や脾臓などの静脈が門脈へと流れていきます。
この門脈に血栓(血のかたまり)ができてしまうのが、門脈血栓症(もんみゃくけっせんしょう、英語ではportal vein thrombosis)です。
今回は門脈血栓症について、その原因や画像所見、治療についてまとめました。
門脈血栓症とは?
肝臓に流れ込む血管は、肝動脈と門脈があります。
このうち門脈に血栓ができるのが門脈血栓症です。
門脈には、下の図のように、腸管や脾臓などから還ってきた静脈が流れます。
門脈に血栓ができると、これらの行き場がなくなり、うっ滞状態になってしまい、さまざまな症状を起こします。
門脈血栓の原因は?
なぜ門脈に血栓ができてしまうのでしょうか?
その原因としては、最も有名なものが肝硬変です。
肝硬変により肝臓実質が硬くなり、肝臓への血液がながれにくくなることで門脈圧亢進といって、門脈圧の圧がたかくなってしまうことで、血栓ができることがあります。
他の原因としては、
- 感染症
- 膵炎
- 消化管炎症性病変:膿瘍、結腸憩室炎、Crohn病、虫垂炎
- 血液骨髄疾患:真性多血症、血小板増加症、タンパク質C,S欠損症、抗トロンビンⅢ欠損症、骨髄線維症など
- 腹部外科手術後
- 脱水、敗血症
- 外傷
などが報告されています1)。
門脈血栓症状の症状は?
門脈の血栓が少量の場合は無症状のこともありますが、
- 右季肋部痛
- 心窩部痛
- 発熱
などの症状が生じることがあります。
さらに、門脈本幹(門脈の太いところ)を埋め尽くすような血栓が出来た場合は、門脈が閉塞してしまい、
- ショック
- DIC
- 肝不全
などの症状を生じ、命に関わることがあります。
門脈血栓症の診断は?
門脈に血栓ができていることの診断としては、画像で門脈の血栓を捉えることです。
- 腹部エコー検査(腹部超音波検査)
- 造影CT検査
で門脈の血栓を捉えることができます。
門脈血栓症のエコー所見・CT画像所見は?
腹部エコーではドプラ超音波といって、血液の流れがわかるモードで、血流の途絶の有無をチェックすることで診断することが可能です。
腹部造影CTでは、造影剤で高吸収(白い)になっている門脈内に低吸収(黒い)として血栓を捉えることができます。
症例 70歳代女性 肝硬変
腹部造影CTの横断像です。
門脈に低吸収の血栓を認めています。
腹部造影CTの冠状断像です。
上腸間膜静脈から肝臓外の門脈にかけて血栓を認めています。
肝硬変による門脈圧亢進の結果、門脈血栓症となったと推測されます。
症例 50歳代男性 肝硬変
造影CTの横断像です。
門脈はほぼ全周性に低吸収の血栓を認めており、開存した門脈はわずかです。
腹部造影CTの冠状断像です。
脾静脈から肝臓の内外の門脈にかけて広範な血栓を認めています。
こちらの症例も肝硬変による門脈圧亢進の結果、門脈血栓症となったと推測されます。
門脈血栓症の治療は?
軽度のものは自然消退する場合もありますが、
- 門脈圧亢進を助長して消化管出血を来す場合
- 肝不全に移行する場合
- 上腸間膜静脈にまで血栓がおよび腸管浮腫や虚血をきたした場合
などには緊急で治療が必要2)となります。
門脈血栓症の治療には、
- 保存的療法
- 血管内治療
- 外科的療法
の大きく3種類があり、通常は保存的療法が行われます。
門脈血栓症の保存的治療とは?
- 血栓溶解療法
- 抗凝固療法
が行われます。
具体的には、
血栓溶解療法では、ウロキナーゼ、tPAといった治療薬が用いられます。
一方、抗凝固療法では、ヘパリン、ワーファリン、アンチトロンビンⅢ製剤といった治療薬が用いられます。
門脈血栓症の血管内治療とは?
カテーテルを用いて血管内からアプローチします。
- 上腸間膜動脈からの持続的線溶療法
- 経皮経肝門脈造影下の血栓溶解・血栓吸引・ステント留置
- TIPS施行の上、この経路からの門脈内血栓溶解・吸引・ステント留置
といった血管内治療2)が行われます。
門脈血栓症の外科的治療とは?
外科的治療とは血栓除去術が行われることがありますが、血管を傷つけてしまうリスクや、外科手術をしても門脈血栓が再発してしまうことがあります。
最後に
門脈血栓症についてまとめました。
最も多い原因は肝硬変によるもので、エコーや造影CTによる診断が重要となります。
参考になれば幸いですm(_ _)m
1)日本臨床 肝・胆道系症候群 肝臓編(下) P239-242,1995
2)Emergency Radiology 救急の画像診断とIVR P141-142,2002