「肝臓に腫瘍が」と聞くと、癌ではないのか・・・と考える方が多いと思います。
しかし、肝臓にできる腫瘍で、頻度の高い「肝血管腫」という疾患があります。
やっぱり癌のように悪いものなの?
今回は、気になる肝血管腫(かんけっかんしゅ「Hepatic hemangioma」)について
- どんな疾患か?
- 原因
- 症状
- 検査
- 治療法
など、気になることを図(イラスト)や実際のCT画像を用いてまとめました。
参考にされてください。
肝血管腫とは?
肝血管腫は、原発性の良性肝腫瘍で、人口の4%に生じるといわれるほど、頻度の高い疾患(肝臓に発生する良性腫瘍ではもっとも頻度が高い)です。
そして、割面は幅の狭い結合織性間質により海綿状(かいめんじょう)を呈しているため、この肝血管腫は別名「海綿状血管腫」ともいわれます。
肝血管腫は肝臓内のどの区域にも発生する可能性があり(肝表直下に存在することもある)、通常は単発で生じるものの、多発することもあります(多発する確率は10%程度)。1)
また、腫瘤の大きさは直径4cm以下のものが多いものの、中には30cmほどの巨大血管腫となるものもあります。
肝血管腫の原因は?
肝血管腫が発生する原因としては、
- 血管異常
- 性ホルモン様物質の関与
- 遺伝性
など先天的な血管異常の関与が考えられています。
また、40歳以降の女性に多く、性ホルモン様物質の関与や家族発生例の報告も多いことから、遺伝性も疑われている現状です2)。
肝血管腫の症状は?
通常は無症状です。
しかし、まれに
- 腹痛
- 不快感
- 腹部膨隆
- 腹部腫瘤
- 肝腫大
を感じることがあります。
このような症状が出るのは、巨大なものだったりする場合で、出血傾向を示すこともあります。
肝血管腫の疑いがある場合の精密検査は?
通常は無症状でスクリーニングとして腹部エコー検査(超音波検査)や腹部単純CTが撮影されたときに偶然肝腫瘤として指摘されることが多いです。
疑いがある場合、消化器内科・消化器外科を受診し、詳しい検査をする必要があります。
血液検査や画像検査を行うことになりますが、肝血管腫の診断には、造影剤を用いた造影CT・MRI検査が有用です。
中でもダイナミック撮影と言って、複数のタイミング(相)に分けて撮影することで診断能が増します。
肝血管腫のCT,MRI画像所見は?
- 動脈優位相(早期相)では腫瘍の辺縁部分から造影剤が入ってゆく(peripheral globular enhancementと呼ばれます。)
- 門脈優位相・平衡相(後期相)にかけ、徐々に内部に染まりこむ(fill-in現象と呼ばれます。)
- 非造影MRIでは、T2強調像で高信号・T1強調像では低信号
- エコーでは、小さいものでは高エコー・大きいものでは多彩な像
という特徴があります。
特にダイナミック撮影で、周りから徐々に造影されるのが特徴的です。
症例 40歳代女性
造影剤を用いていない腹部単純CTの横断像です。
下の画像では、肝臓の左葉S2にのう胞を疑う低吸収域を認めています。
肝臓のS4,5,7にのう胞よりはやや高吸収(白め)の腫瘤を認めています。
続いて、造影剤を用いた肝臓ダイナミックCT撮影です。
動脈相で辺縁を中心に造影効果を認めており、門脈相、平衡相と進むにつれ徐々に内部に造影剤が染み渡るように入っているのがわかります。
典型的な肝血管腫のCT画像です。
多発肝血管腫と診断されました。
こちらの症例のCT画像を動画でチェックする。
症例 40歳代男性 エコーで肝腫瘤を指摘された。
別の症例を動画解説しました。
肝血管腫の治療法は?
症状を呈していない小さなものの場合は、治療を必要としません。
しかし、腫瘍が大きく症状がある場合には、腫瘍摘出術や放射線治療、肝切除術などが行われることがあります。
まれではあるものの、大きくなりすぎると、破裂してしまったり、播種性血管内凝固症候群 (DIC)を伴うこともあるためです。
参考文献:
病気がみえる vol.1:消化器 P344
新 病態生理できった内科学 8 消化器疾患 P210
1)肝海綿状血管腫の画像診断ガイドライン 2007年版 日本医学放射線学会および日本放射線科専門医会・医会共同編集
2)肝海綿状血管腫について 伊藤 洋二 草野 満夫
最後に
肝血管腫について、ポイントをまとめます。
- 肝血管腫は、原発性の良性肝腫瘍
- 肝臓に発生する良性腫瘍では最も頻度が高い
- 海綿状血管腫ともいわれる
- 血管異常・性ホルモン様物質の関与・遺伝性などの原因が考えられる
- 通常は無症状
- 腫瘍が巨大化すると、腹痛や腹部不快感といった症状を呈するようになる
- 肝血管腫の診断には、造影CT・MRI検査が有用
- 無症状な場合、治療は必要ない
- 腫瘍が大きく、症状を呈する場合には、腫瘍摘出術や放射線治療が行われる
良性腫瘍ということで一安心された方も多いと思いますが、治療を必要としない場合でも、経過観察は必要です。