肩の痛みの原因として腱板損傷は多く見られ、その中で眠れないほどの痛みが続く腱板断裂。
高齢者になると日常生活動作によって、自然に断裂するケースも多くあります。
断裂というと、怖く感じますが、必ず手術が必要となってくるのでしょうか?
今回はこの腱板断裂(読み方は「けんばんだんれつ」英語表記で「Rotator cuff tear」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療
- 看護
などといったことを、図や実際のMRI画像を交えながら、ご説明したいと思います。
腱板断裂とは?
腱板は、肩の骨と骨とに挟まれて存在しますが、腱板の強度の低下(退行性変化)や腱板に加わった衝撃などで断裂(切れて裂ける)してしまうことがあります。
また腱板は、
- 棘上筋腱(最多)
- 棘下筋腱
- 肩甲骨下筋腱
- 小円筋腱
のうちのどれかが断裂・不全(部分的に断裂)断裂した状態です。
この中で最も多いのは棘上筋腱の断裂で、高齢者に多い特徴がありますが、若者にも腱板断裂は起こり、その場合不全断裂の比率が高い傾向にあります。
腱板断裂の分類・種類は?
腱板断裂は、その断裂の程度により完全に腱板が断裂してしまう「全層断裂(完全断裂)」と一部の腱板が断裂してしまう「部分断裂(不全断裂)」の2種類があります。
全層断裂(完全断裂)
頻度の多い棘上筋腱で見てみると、全層断裂(完全断裂)では下のように棘上筋腱が大結節(上腕骨頭)付着部から完全に外れている状態を指します。
この場合は棘上筋の萎縮を伴う場合も多いです。
部分断裂(不全断裂)
一方で、一部が断裂している部分断裂(不全断裂)では、以下のようになります。
断裂しているのがどこかで
- 関節包側
- 滑液包側
- 腱内(実質内)
の3つに分けることができます。
関連記事)肩関節周囲炎の原因や治療は?別名「五十肩」について
腱板断裂の原因は?
- 加齢
- 繰り返される機械的刺激(肩の使いすぎ)
- 循環障害
- 重いものを持つ
- 肩を打撲
- 肩関節を脱臼
などが原因や誘因となり起こりますが、この中で重いものを持ったり打撲や脱臼といったものが原因のものを外傷性腱板断裂、それ以外の要因のものを変性腱板断裂といいます。
高齢者の場合では、何気ない日常生活動作の繰り返しによって、本人に自覚がないまま断裂するケースもあり、その場合特に利き腕に多い特徴があります。
また、若者の場合は、スポーツ等によって起こることが多い特徴にあります。
腱板断裂の症状は?
- 疼痛
- 筋力低下
- 可動域制限
などの症状があらわれます。
疼痛
運動時や腕・肩を使う際に痛みを感じることが多くありますが、発症直後には強い痛みから眠れず、疼く痛みに悩まされることも多くあります。
筋力低下
外転位を保持できないといった症状があらわれ、
- 後ろの物を取れない
- 上に物を持ち上げられない
といった筋力低下を感じられます。
可動域制限
外傷性腱板断裂では、自力で肩を動かすといった自動運動が、受傷直後は困難となります。
変性腱板断裂でも、痛みによって思うように動かせないといった制限が出ます。
腱板断裂の診断は?
臨床所見の他、X線検査・MRI検査などによって診断します。
臨床所見
症状の他、
- 棘上筋の筋力低下
- 外旋筋の筋力低下
- インピジメント徴候(肩峰と上腕骨頭の間に腱板が挟まれて痛みが出る現象)
が確認できれば、腱板断裂を疑います。
その際に、誘発テスト(どんな時に痛みが出るのか、痛みを誘発するテスト)を行う場合もあります。
X線検査
- 肩峰骨頭間距離(AHI)の狭小化
- 骨棘形成
などが確認できます。
MRI検査
実際に断裂した腱板を確認できるため、高い診断率を誇ります。
T2強調像やT2✳︎(スター)強調像、STIRの主に斜冠状断像で診断します。
断裂している部位がこれらの撮像方法で異常な高信号となっているところから断裂の診断をします。
症例 70歳代女性
STIRの斜冠状断像です。
棘上筋腱は完全に断裂して、棘上筋は萎縮しています。
右棘上筋腱の完全断裂を疑うMRI画像所見です。
また肩峰下-三角筋下滑液包に液体貯留を認めており、腱板断裂に随伴する所見と考えられます。
症例 60歳代 男性
T2✳︎強調像の斜冠状断像です。
棘上筋腱は大結節付着部で腫大しており、関節包側で異常な高信号を認めています。
棘上筋腱の部分断裂(不全断裂)を疑うMRI画像所見です。
症例 70歳代 男性
T2✳︎強調像の斜冠状断像です。
棘上筋腱は滑液包側及び腱内で異常な高信号を認めています。
棘上筋腱の部分断裂(不全断裂)を疑うMRI画像所見です。
腱板断裂の治療は手術が必要?
いきなり手術を行うというよりは、保存療法を試みて、改善されない場合に、手術となるケースが多くあります。
保存療法
- 局所安静
- 活動制限
- NSAIDsの投与(非ステロイド性抗炎症薬)
- ステロイド関節内注入
- ヒアルロン酸局所注入
痛みが改善されたら振り子運動などを行い、徐々に筋力を回復させる必要があります。
手術療法
保存療法を行っても痛みが改善されない・痛みが強い・筋力低下が著しい・日常生活に支障をきたす場合に手術を選択します。
手術を行うことで、
- 治療期間の短縮
- 筋力の回復
- 断裂拡大の予防
につながります。
中でも、外傷性腱板断裂の場合は、手術が検討されることが多くあります。
手術方法としては、関節鏡下腱板断裂修復術(スーチャーブリッジ法)が多く行われます。
関節鏡下腱板断裂修復術(arthroscopic rotator cuff repair(ARCR))
骨にスーチャーアンカーを打ち込み、断裂した腱板を糸で引っ張り、アンカーで固定するという方法です。
手術時間は30分〜1時間程度で、入院期間は10日前後なことが一般的です。
手術費用は医療機関や入院期間によっても異なりますが、一般的に3割負担で入院費含め29万円ほどですが、限度額申請をしていると、月の支払額を一定額以内に収めることができます。
症例 70歳代 男性
右肩関節の不全断裂に対して、関節鏡下腱板断裂修復術が施行されました。
腱板断裂の看護は?
症状が落ち着くまでは、極力障害のある方の腕を使わず、安静にする必要があります。
痛みがひどい場合には、炎症を抑えるためにアイシングも必要です。
ですが、高齢者の場合特に、筋力低下が進むと、腕や肩を使った動きに支障が出て、そのままかばうように生活してしまい、より一層筋力が戻りにくい状況になるため、症状の改善とともに筋力低下予防の体操が重要です。
また、手術後も肩関節の機能を回復させるためにリハビリテーションが非常に重要となります。
そのため、患者の状態を見ながら、的確な運動・リハビリを指導する必要があります。
一般的に手術の翌日からリハビリを開始しますが、日常生活に支障がなくなるのは術後約1ヶ月ほどで、完全回復には約4ヶ月〜半年ほどかかります。
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P248・249
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P228・229
最後に
- 肩の骨と骨とに挟まれている腱板が断裂した状態
- 外傷性腱板断と変性腱板断裂がある
- 疼痛・筋力低下・可動域制限の症状があらわれる
- 臨床所見・X線検査・MRI検査などで診断する
- 保存療法で改善しなければ手術を検討する
- リハビリテーションが重要
高齢者の場合、手術を拒む方も多くいらっしゃいます。
その場合、保存療法を続けることになりました、定期的に通院し、医師の指導のもと、リハビリも重要となります。