肩の関節を脱臼することがありますが、それを繰り返すことを反復性肩関節脱臼といいます。
よく「肩が抜けると繰り返す」と耳にしますが、実はそれ本当です!
- 「どうして肩関節の脱臼を繰り返すのか?」
- 「繰り返すとどのような合併症が起こるのか」
- 「どのような画像所見になるのか」
- 「治療はどうするのか」
など気になってきますよね。
そこで今回は、反復性肩関節脱臼について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療法
- 手術費用
などを図や実際のレントゲン写真、CT画像、MRI画像を交えながら、わかりやすくお話ししたいと思います。
反復性肩関節脱臼とは?
肩関節脱臼とは、肩の関節が外れることを言い、上腕骨頭が本来あるべき関節窩から逸脱してした状態です。
肩関節脱臼は下の図のように脱臼する方向により、
- 前方に外れる前方脱臼
- 後方に外れる後方脱臼
に分けられます。
頻度は前方脱臼が多く95%を占めます。
さらに、その関節が完全に外れる脱臼と、一瞬外れかかるものの自然に治る亜脱臼とがあります。
そして、肩関節の脱臼を繰り返すことを、反復性肩関節脱臼といいます。
肩関節は、上腕骨と肩甲骨をつなぐ関節で、上腕骨頭は球状で、肩甲骨関節は受け皿状になっています。
この上腕骨と肩甲骨の接触面は、関節包(かんせつほう)や関節唇(かんせつしん)という繊維軟骨性の組織に守られています。
肩関節を脱臼することによって、関節包や関節唇に剥離・切離が生じると、一度治ったと思っても、なかなか元通りにはならず、再発を繰り返す特徴にあります。
反復性肩関節脱臼の合併症
反復性肩関節脱臼には、
- バンカート病変(Bankart lesion バンカート リージョン)
- 骨性バンカート病変
- ヒル・サックス病変(Hill-Sachs lesion ヒルサックス リージョン)
などがあります。
バンカート損傷(Bankart損傷)
関節窩から関節唇靭帯複合体(関節唇の前下方部分)が剥離する病変をバンカート損傷(Bankart損傷)といいます。
バンカート損傷が起こった部分をバンカート病変といい、この部分が整復されないままな状態で経過することで、その部分から脱臼しやすく、反復性肩関節脱臼となります。
脱臼の衝撃が激しい場合、関節唇だけでなく、関節唇の付着する関節窩前下方の骨の剥離骨折や関節窩の骨折を起こすこともあり、これを骨性バンカート病変といいます。
ヒル・サックス病変(Hill-Sachs損傷)
また、上腕骨頭外側部の圧迫骨折(上腕骨頭背側陥凹骨折)はヒル・サックス病変(Hill-Sachs損傷)といい、反復肩関節脱臼では、このヒル・サックス病変を生じることもあります。
肩関節脱臼を繰り返す理由
このBankart損傷及びHill-Sachs損傷はほぼ同時に生じて、2回目以降の肩関節の脱臼を誘発することがあります。
これが悪循環となり、肩関節を繰り返す理由となります。
反復性肩関節脱臼の原因は?
一度脱臼したことでバンカート損傷がおこるために、反復性(繰り返す)となるわけですが、
- 関節唇の損傷
- 肩甲骨関節窩の剥離骨折
- 関節包の弛緩・断裂
が反復性となる原因となります。
ですが、そもそも肩関節を脱臼してしまうことの原因としては、
- スポーツ
- 転倒
- 転落
などが大半を占めます。
初回脱臼が20歳以下に多く、その20歳以下の発症率は80%以上となります。
反復回数が多くなればなるほど、寝返りなどの些細な動作でも起こりやすくなります。
反復性肩関節脱臼の症状は?
肩関節を脱臼すると強い疼痛を肩に感じます。
しかし、それを繰り返すことで、常に「また脱臼しないか」という不安感(心配)が付きまとうようになります。
つまり、一度起きてしまった際の状況を繰り返す(特にスポーツなど)ことが不安になります。
反復性肩関節脱臼の診断は?
- 臨床所見
- X線検査
- CT検査
- MRI検査
- 不安感テスト
などの検査をおこないます。
反復性肩関節脱臼の画像診断は?
X線では、上腕骨頭後外側の陥没やリアルタイムの脱臼の有無を確認できます。
バンカート(Bankart)病変の評価にはMRI検査が、骨性バンカート(Bankart)病変、ヒルサックス(Hill-Sachs)病変の評価にはCTが有用です。
症例 20歳代男性 反復性肩関節脱臼 右肩関節レントゲン
脱臼が起こって来院された方の左肩関節のレントゲンです。
整復後には上腕骨頭は本来あるべき関節窩に戻っています。
症例 20歳代男性 反復性肩関節脱臼 左肩関節レントゲン、MRI
脱臼が起こって来院された方の左肩関節のレントゲンです。
レントゲン透視下で整復されました。
その後の後日の術前の精査目的のMRI検査が以下です。
T2スター強調像横断像で、前下方関節唇がはっきりしないBankart lesionを疑う所見です。
また、上腕骨頭の後外側面に骨挫傷あり、Hill-Sachs lesionが疑われます。
STIR斜冠状断像では、上腕骨頭の後外側面の骨挫傷は高信号を示しており、骨髄浮腫が示唆されます。
症例 60歳代男性 反復性肩関節脱臼 右肩関節CT
右肩関節のCTの画像所見です。
上腕骨頭外側部に凹みを認めています。陥凹骨折であり、Hill-Sachs損傷(ヒルサックス損傷)を疑うCT所見です。
また前方関節窩の骨折を認めています。骨性Bankart損傷(骨性バンカート損傷)を疑う所見です。
症例 20歳代男性 反復性肩関節脱臼 右肩関節CT
こちらも反復性肩関節脱臼の症例です。
Hill-Sachs損傷(ヒルサックス損傷)を認めています。
症例 40歳代男性 反復性肩関節脱臼 右肩関節CT,MRI
右肩関節の反復性脱臼の右肩関節CTとMRIの画像です。
軽度Hill-Sachs損傷(ヒルサックス損傷)を認めています。
またMRI画像では、前方下方の関節唇の構造がはっきりしません。Bankart損傷(バンカート損傷)を疑う所見です。
(骨性Bankart損傷(骨性バンカート損傷)は認めていません。)
反復肩関節脱臼の治療は?
保存療法もしくは手術療法が選択されます。
保存療法
整復をおこない、関節のズレを戻します。
しかし、整復しても繰り返すのが反復肩関節脱臼です。
手術療法
反復肩関節脱臼の根治のためには手術療法が必要になります。
手術は、関節鏡視下バンカート修復術・Bristow(ブリストー)法・観血的制動術などがおこなわれます。
関節鏡視下バンカート修復術
肩甲骨の関節窩に糸付きのビス(アンカー)を打ち込み、靭帯や破壊された骨を固定し、脱臼を補正します。
鏡視下で行われるため、傷跡が小さく(1cm程度の孔が3箇所程度)で済み、入院期間も2〜4日程度で済みます。
手術費用は、3割負担で約30万程度です。
(限度額申請をおこなっていると、窓口での支払いを一定額以内に抑えることができます)
Bristow(ブリストー)法
肩甲骨の烏口突起という骨を1cmほど筋腱付きで骨切りをして、関節窩の前壁にスクリューで固定する方法です。
右肩関節反復性脱臼に対して、Bristow(ブリストー)法が施行されました。
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P245〜247
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P226・227
最後に
- 肩関節の脱臼を繰り返すことを、反復性肩関節脱臼という
- 関節包や関節唇に剥離・切離が生じると、一度治ったと思っても、なかなか元通りにはならず、再発を繰り返す
- スポーツ・転倒・転落などが原因となるが、繰り返すことで些細な動作でも起こりやすくなる
- 肩に強い疼痛をともない、不安感がつきまとうようになる
- 臨床所見・X線検査・CT検査・MRI検査・不安感テストなどの検査をおこなう
- 根治のためには手術が必須
手術をおこなった場合、退院までの期間はそれほどかかりませんが、元どおりにスポーツができるようになるまでには約半年程度かかるといわれています。
しかし、完治すれば、元のように肩を使うスポーツも行えるようになります。