(伝音性)難聴を起こす疾患の1つに、耳硬化症(じこうかしょう)というものがあります。
10〜30歳の女性で白人に多く、日本では稀な疾患です。
しかし、有名なところでいうと、晩年を難聴で苦しんだというベートーベンが、この耳硬化症だったといわれています。
では、この耳硬化症、どのように診断されるのでしょう?
また、現在の治療法も気になってきます。
そこで今回は、耳硬化症(英語表記で「Otosclerosis」)について
- 症状
- 原因
- 診断
- 治療法
などを図(イラスト)や実際のCT画像を用いて解説したいと思います。
耳硬化症とは?
下の図のようにアブミ骨が前庭窓(アブミ骨底のこと)に固着し、可動性が制限されて難聴が起こる疾患を耳硬化症といいます。
この耳硬化症は、思春期に発症することが多くあり、妊娠で増悪することがあります。
耳硬化症の症状は?
- 伝音性難聴
- 混合性難聴
初期症状としては低音ほど聞こえにくく、高音やうるさい音は聞こえやすいというパターンを呈します。
また、両側性の伝音性難聴が主ですが、前庭窓(アブミ骨底)では卵円窓を隔てて内耳と接しているため、感音性の要素も加わって徐々に混合性難聴となります。
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耳硬化症の原因は?
はっきりとした原因はわかっていません。
しかし、遺伝性もあるといわれています。
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耳硬化症の診断は?
- 耳鏡検査
- 聴力検査
- ティンパノグラム
- CT検査
などの検査を行い診断します。
耳鏡検査
鼓膜所見は正常です。
しかし、シュワルツェ(Schwartze)の徴候を示すこともあります。
鼓膜の発赤ですが、鼓膜粘膜(鼓膜の突き当たりの)はアブミ骨底の少し下側になるので、ここまで及んだ変化が鼓膜から透けて見えるために、このように見えると推測されます。
聴力検査
伝音性難聴パターンを示します。
2,000Hz付近の骨導聴力が低下しやすく、1,000Hz・4,000Hzの骨導聴力と比べると凹みが形成される特徴もあり、これをCarhartの陥凹(Carhart’s notch)と呼びます。
ティンパノグラム
耳硬化症ではAs型が多いといわれていますが、コンプライアンス正常のA型であることも約半数を占めるため、あくまでも補助的検査として行われます。
CT検査
側頭骨をCTで撮影すると、内耳骨包にリング状の脱灰像を認めることもあります。
症例 50歳代 女性 右耳の閉塞感、めまい
側頭骨のCTの冠状断像です。
右側ではあぶみ骨が付着する卵円窓前部辺縁の骨が溶けている(これを脱灰という)状態がわかります。
一方で正常である左にはこのような所見はありません。
右側の耳硬化症(窓型)と診断されました。
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耳硬化症の治療法は?
有効な薬物療法がなく、基本は手術が第一選択です。
手術方法としては、アブミ骨手術(stapes surgery)が多く行われています。
- アブミ骨可動術(stapes mobilization)
- アブミ骨底開窓術(stapedotomy)
- アブミ骨摘出術(stapedec-tomy)
などが、アブミ骨手術にはありますが、アブミ骨底窓術が広く行われている現状です。
アブミ骨の上部構造を取り除き、前庭窓に小孔を開けて人工のアブミ骨を埋め込むものになります。
参考文献:
100%耳鼻咽喉科 国試マニュアル 改訂第4版P56
まとめてみた 耳鼻咽喉科P191
STEP SERIES 耳鼻咽喉科 第3版P68・67
耳鼻咽喉科疾患 ビジュアルブックP75・76
最後に
耳硬化症について、ポイントをまとめます。
- アブミ骨が前庭窓(アブミ骨底のこと)に固着し、可動性が制限されて難聴が起こる疾患
- 初期では、低音ほど聞こえにくく、高音やうるさい音は聞こえやすい(Willis錯聴)
- 遺伝性もある
- 耳鏡検査・聴力検査・ティンパノグラム・CT検査などを行い診断する
- 治療法としては、アブミ骨手術が選択される
中には手術を選択しない方もおられ、その場合は補聴器の適応となります。