滑液包炎(かつえきほうえん)といって、関節の周りにある滑液包という液体を含む小嚢に炎症が生じて滑液炎を起こすことがあります。
その中の1つにBaker嚢胞(読み方は「ベーカーのうほう」)というものがありますが、今回はこのBaker嚢胞について
どんなものなのか?
- 原因
- 症状
- 検査
- 治療
について図(イラスト)や実際のMRI画像を用いてわかりやすくご説明したいと思います。
Baker嚢胞とは?
滑液包炎のうち、膝窩部(膝の関節腔の後方)に生じるものをBaker嚢胞(英語表記で「Baker cyst」)といいます。
Baker嚢胞は別名「膝窩嚢胞」(英語表記で「popliteal cyst」)とも呼ばれます。
下の図(イラスト)のように固有膝関節腔と高頻度で交通を認めます。
膝の関節腔の後方(皮膚・筋肉・腱・靭帯などと骨が摩擦を生む部位)に液体を含む小嚢に炎症が生じたもので、滑液が貯留した袋状の腫瘤です。
その貯留物は内側腓腹筋滑液包と半腱様半膜様筋滑液包の炎症による滲出液(滑液)です。
小児では稀で、年齢とともに頻度が増すと言われ、全身の中で最も頻度の高い滑液嚢胞です。
Baker嚢胞はどうしてなる?原因は?
- 関節リウマチ
- 変形性膝関節症
- 膝関節の酷使
などが、発症要因となります。
ですが、中には難治な例、再発例もあり、外傷を繰り返したことが原因となり慢性化することもあります。
Baker嚢胞の症状は?破裂することもある?
- 運動時の疼痛
- 患部を押すと痛む
- 関節可動域制限
- 腫脹(しゅちょう)
などがあります。
滑液包炎の中でもこのBaker嚢胞は、最も生活に差し支えが出る膝部分なため、関節可動域に制限が出たり痛みが出ると、歩行にも制限が出ます。
中には、滑液が多くなり、内圧が高まると強く痛むだけでなく、破裂し周囲の静脈炎を起こすこともあります。
Baker嚢胞の検査は?
臨床的所見やMRI検査、あるいは滑液包穿刺、などをおこない診断されます。
ですが、慢性化して見た目にも変形をきたしている場合には、画像検査で関節の変形を詳しく確認することもあります。
臨床的所見
上記でご説明した、痛みの出現の確認、可動域の確認などをおこないます。
MRI検査
膝のMRI検査を行うと、腓腹筋内側頭と半膜様筋の間にくびれた形で存在します。
膝のMRI検査の横断像では、コンマ型の形態を示し、T2強調像では高信号の嚢胞性病変として描出されます。
稀に内部に出血などを伴うこともあります。
症例 70歳代男性 右膝MRI
腓腹筋内側頭と半膜様筋の間にコンマ型の液貯留を認めています。
矢状断像においても確認できます。
Baker嚢胞を疑う所見です。
症例 70歳代男性 右膝MRI
上の症例と同じように腓腹筋内側頭と半膜様筋の間にコンマ型の液貯留を認めています。
矢状断像においても確認できます。
Baker嚢胞を疑う所見です。
症例 80歳代女性 右膝MRI
こちらも腓腹筋内側頭と半膜様筋の間にコンマ型の液貯留を認めています。
矢状断像においても確認できます。
Baker嚢胞を疑う所見です。
症例 70歳代女性 下肢造影CT
CTにおいても嚢胞性病変であるBaker嚢胞を同定することができます。
滑液包穿刺
滑液包穿刺では、実際に貯留している液を採取・分析し、起因菌の同定・結晶の存在を確認し、非感染性・感染性の鑑別をします。
Baker嚢胞の治療は?
保存的療法もしくは、手術療法を選択することになります。
保存療法
- 局所安静→サポーター等で固定し、患部を保護し極力使わないようにする
- 薬物療法→鎮痛薬・NSAIDs・感染症に対しては抗菌薬などの投与
- ストレッチ→痛みが落ち着いたら
- ステロイド薬→局注
- 局所麻酔薬→関節包内注射
- 穿刺・排液→貯留液の排除は治療にも診断にもなる
などが選択されます。
また、原因がはっきりしている場合には、その原因の治療が重要です。
手術療法
痛みが強い場合、再発を繰り返す場合には手術を選択します。
手術は「滑液包切除術」といって、皮下を切除して腫瘍や滑液包を取り出す方法がありますが、中には癒着をともなうこともあり、なかなか難しい手術となることもあります。
参考文献:整形外科疾患ビジュアルブック P204・205
参考文献:全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P158・159
最後に
- 滑液包炎のうち、膝窩部(膝の関節腔の後方)に生じるものをBaker嚢胞という
- 関節リウマチ・変形性膝関節症・膝関節の酷使などが発症要因となる
- 運動時の疼痛・圧痛・可動域制限・腫脹などがあらわれる
- 臨床的所見・滑液包穿刺・画像検査をおこない診断する
- 保存療法もしくは手術療法を選択
痛みを我慢して無理して使い続けると、症状が進行し、悪化してしまいます。
そのため、痛みを我慢せず整形外科を受診し、正確な診断を受け、治療をしましょう。