咀嚼とは食べ物を噛むことで、咀嚼筋(そしゃくきん)とは咀嚼のために使う筋肉のことで、実は4つの筋肉を合わせたものを言います。
今回はそんな咀嚼筋(英語表記で「Masticatory muscle」)について、
- 咀嚼筋とはどのような筋肉なのか
- 咀嚼筋を支配している神経はなにか
- 咀嚼筋の場所はどこか
- 咀嚼筋はどのような運動をするのか
- 咀嚼筋に起こる障害にはどのようなものがあるのか
についてイラスト(図)や実際のMRI画像を用いて解説しました。
咀嚼筋とは?
咀嚼筋とは、その名の通り、咀嚼(=食べ物を飲み込むためによく噛むこと・顎関節の運動)する際に働く筋群を意味します。
この咀嚼に関する筋群には、
- 咬筋(こうきん)
- 側頭筋(そくとうきん)
- 内側翼突筋(ないそくよくとつきん)
- 外側翼突筋(がいそくよくとつきん)
の4つの筋肉が含まれ、これらをまとめて咀嚼筋といいます。
咀嚼筋の支配神経は?
咀嚼筋は、発生学的に見ると、第一鰓弓に由来します。
そして、第一鰓弓に分布する三叉神経の第3枝(下顎神経)の支配を受けているのです。
咀嚼筋の場所や運動とは?
咀嚼筋は、頭部の深部にあります。
また、顔面筋に比べると強大で、頭蓋の側面・底から下顎骨についているのです。
咬筋
場所としては、咀嚼筋の中ではもっとも浅い部分にあり、頰骨弓から下顎枝・下顎角の外側についています。
咬筋は、歯を噛み合わせた時に体表から確認(見て触れる)することができるのです。
そして、顎関節の運動として、挙上(下顎骨を引き上げ歯を噛み合わせる動き)に関わります。
側頭筋
側頭骨・頭頂骨の側面から、下顎骨の筋突起についている、扇状の大きな筋です。
顎関節の動きとしては、後退(下顎骨を引き上げる)する運動をしています。
内側翼突筋
側頭下窩の深側にある筋です。
咬筋と場所も近いことから、挙上(下顎骨を引き上げる)という同様の動きと下顎の左右運動をしています。
外側翼突筋
下頭と上頭の2頭があり、下頭は蝶形骨の翼状突起の外側板の外側面、上頭は大翼の下面から後方に向かって水平に走る筋です。
下顎の前進や、左右に下顎を動かす運動に関わっています。
これら咀嚼筋は、CTやMRIの画像検査でも描出することができます。
実際のMRIの画像を見てみましょう。
症例 30歳代男性 スクリーニング
T2強調像という撮像方法の横断像(輪切り)です。ちょうど上の歯が見えるスライスです。
上のように咀嚼筋を構成する4つの筋肉を同定することができます。
咀嚼筋のMRI画像における場所・解剖について動画解説しました。
咀嚼筋に起こる問題は?
この咀嚼筋に起こる疾患あるいは障害としては
- 筋萎縮
- 筋肥大
- 筋炎
- 線維性筋拘縮
- 腫瘍
- 咀嚼筋腱・腱膜過形成症
があります1)。
筋肥大
咀嚼筋、中でも咬筋に肥大を認めることがあり、良性咬筋肥大や良性咀嚼筋肥大と言われることがあります。
歯ぎしりやガムを噛む習慣など後天的な原因で起こる事が多く、とくに青年期に多いとされます。
CTやMRIで一側性もしくは両側の咬筋肥大を認めます。
咬筋のみでなく、咀嚼筋全て肥大を認めるとさらに確定的とされます。
症例 40歳代男性 スクリーニング
両側の咬筋の肥大を認めています。
良性咬筋肥大と診断されました。
咀嚼筋腱・腱膜過形成症
咀嚼筋腱・腱膜過形成症(masticatory muscle tendon-aponeurosis hyperplasia)は、腱や腱膜の過形成により咀嚼筋(中でも咬筋、側頭筋)が進展障害を起こし、その結果開口制限を来す比較的新しい概念の疾患です。
この疾患の特徴的な臨床所見の一つに、square mandible様顔貌(正方形のような下顎骨)があります。
MRIの画像所見としては、
- 下顎骨のsquare様形態(下顎角部の過形成により正方形のような形をしている)
- T1強調像で咬筋、側頭筋に低信号を示す腱や腱膜の過形成
が報告されています2)。
参考サイト、書籍:
1)日顎誌.2014;26:120-125.
2)Int J Oral Maxillofac Surg 38:1143-1147,2009
解剖学講義 改定2版P527〜529
第9版 イラスト解剖学P200
最後に
咀嚼筋について、まとめました。
- 咀嚼する際に働く筋群を咀嚼筋という
- 咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋という4種類が咀嚼筋に属する
- 咀嚼筋は、頭部の深部にある
- 咀嚼筋は三叉神経の第3枝(下顎神経)の支配を受ける
- 顎関節の挙上・下制・前進・後退・左右運動に関わる
- 咀嚼筋の問題として、新しい概念である咀嚼筋腱・腱膜過形成症などがある
といった点がポイントとなります。
参考になれば幸いです。