手を使う職業なのに、手が痛く、力が入らないといった症状はありませんか?
もしかしたらその症状、手根管症候群にも似ていますが、キーンベック病(Kienböck病)の可能性もあります。
なかなか聞きなれないキーンベック病という病名、どのような原因で起こり、どのような治療法があるのでしょう?
今回は、キーンベック病(Kienböck病)について
- 症状
- 原因
- 診断
- 治療(手術)
をわかりやすく、図(イラスト)や実際のレントゲン、CT、MRI画像とともにわかりやすくまとめました!
キーンベック病(Kienböck病)とは?
手首の月状骨に起こる無菌性壊死で、血流障害で圧潰する病態です。
キーンベック病は、別名「月状骨軟化症」げつじょうこつなんかしょう、英語表記で「lunatomalacia Kienböck disease」といいます。
キーンベック病という病名は、オーストラリアのキーンベック医師がこの病態を1910年に報告したことから、呼ばれるようになりました。
骨の内部、もしくは骨の外側の血流が途絶える(血流障害)ことで壊死が生じる疾患で、20〜40代に好発しますが、尺骨が橈骨よりも短いことがやや多い傾向です。
また、月状骨の周囲の関節に変形性関節症変化を伴うこともあります。
キーンベック病の症状は?
- 手首の痛み
- 手首の腫脹
- 握力の低下
- 手首が動かしにくい
といった症状があらわれます。
手首の痛みは、動かしても痛み(運動痛)、手背部を押しても痛みます(圧痛)。
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キーンベック病の原因は?
はっきりとした原因はわかっていません。
- 手首の負担
- 繰り返す外傷
- 過剰な負荷
尺骨が橈骨よりも短いことで起こる負担や、繰り返す外傷や過剰な負荷が関与し、血流障害が発症要因となると考えられています。
とくに、大工など普段から手を使う職業の人に多くみられ、利き手での発症例が多い傾向です。
キーンベック病の診断は?
臨床症状のほか、X線やMRIなどの画像検査によって診断されます。
X線では、下のようにリットマン分類のⅡ期以上では月状骨に骨硬化を認めます。
さらに早期の場合、X線検査では判断できないことがありますが、MRIでは早期診断にも有用です。
この場合、病変部は、T1強調像で低信号を、T2強調像では種々の信号強度を示し、脂肪抑制T2強調像やSTIRで高信号をしまします。
また、月状骨に変形が確認できます。
この画像検査で、進行度を評価し、それに応じて、4段階に分類されます。
キーンベック病の分類
- Ⅰ期・・・X線検査では異常が認められないものの、MRIでは異常を認める
- Ⅱ期・・・圧痛はないものの、X線で月状骨の骨軟化像を認める
- Ⅲ期・・・月状骨の圧潰・有頭骨が近位へ移動する
- Ⅳ期・・・手根骨間や橈骨手根関節に、関節症性変化を認める
Ⅲ期は、さらに細かく舟状骨の掌屈変形があるかないかで、ⅢA期・ⅢB期と分けられます。
- ⅢA期・・・舟状骨の掌屈変形はない
- ⅢB期・・・舟状骨の掌屈変形あり
症例 40歳代 男性 右手首の痛み。長年電気工具の仕事をしている。
右手のレントゲンで月状骨に骨硬化を認めています。
右手関節のCT検査においても同様です。
MRI検査ではT1強調像で月状骨全体に低信号(黒い)を認めています。
STIRでは、淡い高信号(黒い中に淡い白さ)を認めています。
キーンベック病stageⅢAと診断され、手術となりました。
症例 20歳代 男性 右手首の痛み
右手のレントゲンで月状骨に骨硬化を認めています。
MRI検査ではT1強調像で月状骨全体に低信号(黒い)を認めています。
STIRでは、広範な高信号(白い)を認めています。
キーンベック病stageⅢAと診断され、手術となりました。
症例 30歳代 男性 右手首の痛み
手のレントゲンで月状骨に骨硬化を認めています。
左手は月状骨には骨硬化を認めていません。こうやって比べるとよくわかりますね。
右手関節のCT検査においても同様です。
MRI検査ではT1強調像で月状骨全体に低信号(黒い)を認めていますが、この症例ではSTIRではほぼ低信号(黒い)信号を示しています。
こちらの症例もキーンベック病stageⅢAと診断され、手術となりました。
症例 40歳代 男性
右手レントゲンで、右手舟状骨には骨硬化を認めています。
また、月状骨には透亮像を認めています。
右手関節CTでは、舟状骨に骨折を認め、偽関節の形成を認めています。
また月状骨には骨皮質を残して骨融解を認めています。
MRIのT1強調像では、月状骨には骨のう胞を、舟状骨には偽関節の形成を認めています。
キーンベック病stageⅢBと診断されました。
キーンベック病の治療は?
保存療法もしくは、手術療法が選択されます。
保存療法
- 局所安静
- ギプス装着
- 局所固定
などを行い、症状の改善と進行の抑制を目的とします。
手術療法
- 橈骨骨切り術
- 血管柄付き骨移植術
- 部分手関節固定術
- 近位手根列切除術
- 月状骨摘出
などという手術方法があります。
手術は、進行度に応じて選択されます。
参考文献:
整形外科疾患ビジュアルブック P158
全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 P248・249
骨軟部疾患の画像診断 第2版P224・225
最後に
- 手首の月状骨が血流障害により圧潰(壊死)する病態
- 手首の痛みや握力低下、動かしにくいといった症状が現れる
- 詳しい原因は不明
- 手を頻繁に使う職業の人の利き手によく起こる
- X線やMRI検査で進行度を分類する
- 保存療法もしくは手術が選択される
痛みを我慢し、手首を使い続けると、どんどん進行してしまいます。
自然回復は見込めないため、症状を放置せずに、早期に治療を開始することが重要です。