中耳炎とひとえにいっても、
などの種類がありますが、その中でも慢性中耳炎の1つである真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)という疾患をご存知でしょうか?
「中耳炎なのに、真珠性って?」
と思ってしまいますが、この真珠性というのは、19世紀前半にクリュベイエ博士が「真珠のような腫瘍」と報告したことにより、この名前がつきました。
今回は、この真珠腫性中耳炎(英語表記で「Cholesteatoma」)について
- 原因
- 症状
- 診断
- 治療
などを実際の耳鏡所見・CT画像を見ながら解説したいと思います。
とくに気になるのは、治療法ですよね?
「手術は必要なのか?」
という問題についても、お話ししますので、ぜひ参考になさってください。
真珠腫性中耳炎とは?原因は?
真珠のようと例えられて名前がついた真珠性中耳炎ですが、その真珠とは角化した扁平上皮とその残骸で、中耳真珠腫とも呼ばれます。
先天性真珠腫
先天性とは生まれる前から真珠腫があったということです。
胎生期に扁平上皮細胞が中耳腔に迷入し、それが嚢胞となり、嚢胞の中に角化物質が溜まりながら(堆積しながら)、少しずつ成長して周囲を破壊していく疾患です。
後天性真珠腫
一方で後天性とは、生まれた後で真珠腫が形成されたということです。
何らかの原因で、鼓膜由来の扁平上皮細胞が鼓室に侵入することから起こります。
- 乳児期に急性中耳炎を何度も繰り返したこと
- 耳管の機能不全(狭窄)
- 滲出性中耳炎
などが原因となります。
上鼓室を中心に起こる(稀に鼓室に生じることもある)ことが多く、骨破壊が強くなるため、様々な症状が出現します。
真珠腫性中耳炎の症状は?
- 鼓膜の陥凹
- 悪臭のある膿性耳漏
- 耳茸(ポリープ)
- 耳痛
- 頭痛
- 伝音障害
- 顔面麻痺
- めまい
- 瘻孔症状
- 髄膜炎
など、進行するにつれ様々な症状が現れます。
真珠腫の塊の腐敗が加わると悪臭のある耳漏となります。
また、骨破壊が起こるのもこの真珠性中耳炎の特徴といいましたが、骨破壊が起こりることで以下のことが起こります。
- 迷路破壊されると、Tullio現象といって、強い音でめまいが出現
- 外側半規管瘻孔となると、瘻孔症状として圧迫眼振が
- 顔面神経が破壊されると、顔面神経麻痺
- 耳小骨破壊が起こると、伝音障害
など。
真珠腫性中耳炎の診断は?
- 鼓膜の観察(耳鏡検査)
- 画像検査(骨欠損像を確認)
- 細菌検査
- ティンパノグラム(鼓膜の可動性をみる)
- 純音聴力検査
などが、診断には有用です。
鼓膜所見として・・・先天性の場合、鼓膜が白く見え、後天性では上皮が陥凹して見えます。
症例 70歳代女性 右難聴、めまい
右側頭骨CTの冠状断像です。
中耳は軟部陰影で充満しており、半規管及び頭蓋腔との間に瘻孔を形成しています。
右の真珠腫性中耳炎(+半規管瘻孔)を疑う所見です。
症例 60歳代女性 左難聴とめまい
医師国家試験109A27より引用改変
左の耳鏡所見と側頭骨CTの冠状断像です。
耳鏡所見では鼓膜は破れており、角化物質を認めています。
側頭骨CTでは右には異常所見は認めない一方で、左の中耳は軟部陰影で充満しており、半規管との間に瘻孔を形成しています。
また耳小骨を認めず、脱灰が疑われます。
左の真珠腫性中耳炎(+半規管瘻孔)を疑う所見です。
真珠腫性中耳炎の治療は?
炎症産物を除去・中耳伝音系の再建・鼓膜形成をするために、手術が必要となります。
真珠腫が乳突蜂巣まで侵入している場合は、乳様突起を削開しないと完全な除去は不可能で、取り残せば再発を繰り返すことになります。
この乳様突起の削開の方法として、
- 外耳道後壁保存型鼓室形成術(closed法)・・・骨部外耳道壁を残す(進行していないケース)
- 外耳道壁削除型鼓室形成術(open法)・・・後壁も削ぎ落とす(進行しているケース)
- 外耳道後壁再建法・・・軟骨を用いて後壁を再建・人工材を用いて生理的な外耳道形態を作る
とがあります。
参考文献:
100%耳鼻咽喉科 国試マニュアル 改訂第4版P52
まとめてみた 耳鼻咽喉科P191
STEP SERIES 耳鼻咽喉科 第3版P61〜64
耳鼻咽喉科疾患 ビジュアルブックP73・74
最後に
真珠腫性中耳炎について、ポイントをまとめます。
- 真珠腫性中耳炎は先天性と後天性がある
- 先天性は、胎児期に起こる上皮の鼓膜への迷入が原因
- 後天性は、鼓膜由来の扁平上皮細胞が鼓室に侵入することで起こり、乳児期の繰り返した急性中耳炎・耳管の機能不全(狭窄)・滲出性中耳炎が原因
- 真珠腫性中耳炎は、骨破壊が強く起こる
- 進行するにつれ、様々な症状が現れる
- 鼓膜の観察・画像検査・細菌検査・ティンパノグラム・純音聴力検査などを行い診断する
- 炎症産物を除去・中耳伝音系の再建・鼓膜形成が必要
- 真珠腫を侵入した上皮と一緒に摘出することが重要
骨破壊性をもつのが、この真珠腫性中耳炎の特徴であるため、進行すると症状はひどくなるばかりです。
そのため早期治療が望ましく、また再発しやすい疾患でもあるため、術後も定期的な経過観察をする必要があります。