血液検査で肝炎を調べる際、HBs抗原HCV抗体という項目を目にします。

 

実はこれB型肝炎、C型肝炎の検査の一つです。

ところで、なぜこれらの検査を行うのでしょうか?

それはこの検査を行うことでB型肝炎やC型肝炎を早期に発見して、早期に治療を開始することで、慢性肝障害(慢性肝炎→肝硬変→肝細胞癌)へと進展することを防ぐためです。

そこで、今回は、HBs抗原とHCV抗体について解説し、

  • 基準値
  • 検査意義
  • 陽性の場合

などをお話ししていきたいと思います。

HBs抗原とは?

HBs抗原とは、B型肝炎ウイルス(HBV)の表面にある抗原です。

通常、この抗原が陽性であれば、体内にB型肝炎ウイルス(HBV)がある(HBV感染状態)ことを示します。

つまりB型肝炎であることを示します。

ただし、急性肝炎なのか慢性肝炎なのかの区別はこの項目だけではできません。

 

抗原(こうげん)と抗体(こうたい)とは?
  • 抗原は、体内で抗体を形成・出現させる物質
  • 抗体は、病原体などが体内に侵入した際、追い出すために働く対抗物質(免疫)

 

HCV抗体とは?

C型肝炎ウイルス(HCV)複合抗原に対する抗体をHCV抗体といい、中和抗体としての効果はありません。

この抗体は、HCV感染者では陽性となるほか、過去に感染し治療を行った人でも陽性となります。

この抗体は感染してもすぐに陽性にはならず、陽性化するまでに3-6ヶ月かかります2)

つまり、HCV抗体が陽性ならば、感染してから少なくともこれらの期間が経過していることを意味しますので、慢性肝炎や既往感染を示唆します。(急性肝炎ではないということです。)

では、どのような数値でこれらの項目が陽性となるのか、次でお話しします。

 

HBs抗原・HCV抗体の基準値は?

それぞれに分けて基準値を説明します。
医師
医師

HBs抗原

検出感度は磁性化粒子凝集(MAT)法・化学発光免疫測定(CLIA)法というものがあり、それぞれ

  • MAT・・・8倍未満
  • CLIA・・・0.05U/mL未満

が基準値であり、これを満たす場合をHBs抗原陰性とします。

HCV抗体

HCV抗体を測定するには、いくつかの種類がありますが、どの測定キットでもHCVの

  • 構造たんぱく領域(コアと呼ばれる部分)
  • 非構造たんぱく領域(HCVの増殖に必要な酵素群などをコードする部分)

の2つをカバーすることで、検出感度をあげています。

  • HCV抗体2nd・・・CLIA/EIA・・・1.00未満
  • HCV抗体3rd・・・IRMA/LA・・・1.00未満
  • HCVコア抗体・・・IRMA・・・1.0U未満
  • HCV抗体(RIBA-Ⅲ)・・・イムノブロット・・・陰性
  • HCV群別(グルーピング)・・・EIA・・・グループ1またはグループ2
  • HCVコア蛋白質・・・IRMA/CLEIA・・・20fmol/L未満

が基準値であり、これを満たす場合をHCV抗体陰性とします。1)

 

HBs抗原とHCV抗体の検査をするのはなぜ?

  • HBs抗原は、B型肝炎ウイルス(HBV)
  • HCV抗体は、C型肝炎ウイルス(HCV)

への感染にそれぞれ関与しており、これらを早期発見・早期治療することにより、慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌へ進展することを予防するのが目的で測定されます。

HBs抗原・HCV抗体が陽性となった場合どうしたらいい?

これらの検査項目が陽性となった場合、

  • AST/ALTなどの肝逸脱酵素
  • HBs抗体
  • HBc抗体
  • HBe抗原抗体
  • HBV DNA定量検査

などの精密検査を行い、肝炎ウイルスへの現在の感染状態を確認することになります。

HBs抗原・HCV抗体が陽性となった場合、治療は?

B型肝炎、C型肝炎に分けて説明します。

B型肝炎の場合

B型肝炎の場合、上のように無症候性キャリアと非活動性キャリアは、治療適応とはなりません。

 

無症候性キャリアや非活動性キャリアとは?
  • 無症候性キャリアは、免疫寛容期にあるHBe抗原陽性で、HBV増殖が活発な時期であるものの、肝炎の活動性はない状態。
  • 非活動性キャリアは、HBe高原からHBe抗体へのセロコンバージョンが起こったもので、肝炎が沈静化した状態。

 

そのため、無症候性キャリアでは、通常3〜6ヶ月ごとの血液検査によるHBV感染状態や肝機能の評価に加え、年1回の腹部超音波・腫瘍マーカーの評価が推奨されています。

そして、非活動性キャリアでは、通常6〜12ヶ月ごとの血液検査によるHBV感染状態や肝機能の評価と、年1回の腹部超音波・腫瘍マーカーの評価が推奨されているのです。

無症候性キャリアでも非活動性キャリアでもない慢性肝炎(すなわち、ALT≧31U/LかつHBV DNA≧4.0 log copies/ml)の場合は、薬物治療の対象となるため、専門科(消化器内科など)を受診する必要があります2)

C型肝炎の場合

一方、HCV陽性の場合、約70%の症例で急性肝炎が持続感染に移行して、無症候性キャリアへ移行しますが、その大部分は組織学的に慢性肝炎の状態に陥ります。

そのため、すべてのC型肝炎は、抗ウイルス療法を中心とした投薬治療の適応となるため、専門科(消化器内科など)を受診しましょう。

 

生活の上でも注意があります。
医師
医師

生活上の注意

HBVは、

  • 母子感染
  • 性行為感染
  • 血液感染

が知られていますが、とくに生活する上では歯ブラシ・カミソリ・日用品の共有・乳幼児への血液付着や口移しなどには注意が必要です。

そして、B型肝炎・C型肝炎共に、アルコールや栄養状態は肝機能の増悪をきたし得るため、節酒や栄養バランスのとれた食生活を心がけるようにしましょう。

参考文献:
1)今日の臨床検査 2011ー2012 P320〜325
2)人間ドック検診の実際P165〜167
最新 健康診断と検査がすべてわかる本P108〜111
よくわかる検査数値の基本としくみP148・149

最後に

HBs抗原とHCV抗体についてポイントをまとめます。

  • HBs抗原は、B型肝炎ウイルス(HBV)の表面にある抗原
  • C型肝炎ウイルス(HCV)複合抗原に対する抗体をHCV抗体という
  • HBs抗原とHCV抗体共に陰性が基準値
  • 早期発見・早期治療をしなければ、慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌へ進展することも多くあるため、検査は重要
  • 節酒や栄養バランスのとれた食生活を送ることも重要

 

気づかずに放置していると、症状は進行したり、家族への感染の危険性もあります。

そのため、重要な検査であるといえるでしょう。

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