腹式呼吸をする際、「横隔膜を上下に動かすように」などというセリフを耳にすることがありますよね。

横隔膜ってどこにあるのでしょう?
そう・・・なんとなく胸付近?
いや・・・お腹付近?

などと、イメージすることはあっても、なかなかココが横隔膜という場所をご存知ない方も多いですよね。

そこで今回は、横隔膜(読み方は「おうかくまく」英語表記で「diaphragm」)について

  • 横隔膜はどこにあるのか、その場所(位置)
  • 横隔膜挙上とはどのような状態なのか
  • 横隔膜に起こる病気

などを図(イラスト)や実際のCT画像・レントゲン画像、さらには横隔膜がCT画像でどのように見えるのか動画を用いて解説したいと思います。

横隔膜の場所はココ!

横隔膜の場所はどこでしょうか?

下の図をご覧ください。

横隔膜は胸腔(きょうくう)と腹腔(ふっくう)を隔てる膜状の筋肉であり、大まかには

  • 肺・心臓の直下
  • 肝臓や脾臓の直上

にあると考えてください。

実際のCT画像を見てみましょう。

胸部単純CT(縦隔条件)の冠状断像です。

前から見た画像と考えてください。

左右の肺とその間の心臓の直下、また肝臓の直上に横隔膜が存在することがわかりますね。

 

横隔膜の解剖は?

ただし、今見た横隔膜は1スライスだけですので、横隔膜の中でも一部です。

実際は横隔膜はもう少し立体的でドームのような形をして位置しています。

横隔膜は胸郭下口の周囲・肋骨弓の内面・胸骨剣状突起の後面〜中心に向かい、中央では腱模様の腱中心を作っています。

この横隔膜は、起始により

  • 腰椎部
  • 肋骨部
  • 胸骨部

の3部に分けられています。

 

それぞれについて説明します。

腰椎部

腰椎付近に起始する部分で、第1〜3腰椎の両側にある弓状の靭帯から起こります。

ほぼ中心部に食道裂孔があります。

肋骨部

下位肋骨に起始する部分で、下位6対の肋骨と助軟骨から起こります。

胸骨部

胸骨剣状突起に起始する部分で、胸骨の剣状突起の内面から起こっています。

またCT画像を用いて横隔膜がどのように存在しているのかを動画解説しました。

ぜひ動画でチェックしてください。

横隔膜の挙上とは?原因・鑑別は?

胸部レントゲン検査や胸部CT検査を受けた時に、

「右の横隔膜挙上があります。」
「左の横隔膜が挙上しています。」

などと指摘されることがあります。

横隔膜挙上とは文字通り、横隔膜が正常よりも持ち上がっている(上にあがっている)状態です。

これにはどのような原因や鑑別があるのでしょうか?

横隔膜挙上の原因は大きく3つに分けることができます。

すなわち、

  • ①胸腔の問題
  • ②横隔膜の問題
  • ③腹腔の問題

の3つです。

①胸腔の問題

これは、本来膨らんで横隔膜を上から下に押している肺野に問題がある状態です。
つまり、肺が収縮して横隔膜を上に引っ張っているような状態です。

  • 無気肺
  • 肺塞栓
  • 間質性肺炎

などが原因となります。

②横隔膜の問題

次に、横隔膜自身に問題があるという状態です。

  • 横隔膜麻痺
  • 横隔膜ヘルニア
  • 横隔膜損傷
  • 横隔膜弛緩症

などが原因となります。

横隔膜麻痺は横隔神経麻痺とも言われ、神経に障害があるために横隔膜が麻痺してしまう状態です。

③腹腔の問題

最後に、腹腔側に問題がある状態です。

これは腹腔に本来はない異物などがあり、それにより横隔膜を上に押している状態です。

  • 肝腫大
  • 肝外傷
  • 腹水貯留
  • 横隔膜下膿瘍・出血
  • 脾損傷
  • 結腸(便秘も含まれる)による圧排

などがあります。

肝腫大と肝外傷は通常右側の横隔膜が挙上し、脾損傷の場合は通常左側の横隔膜が挙上することになります。

 

ただしこれらの原因に当てはまらず、原因が不明であることもあります。

また肥満が原因で両側の横隔膜が挙上することもあります。

 

それでは、実際の症例を見てみましょう。

症例  70歳代男性 健診の胸部レントゲンで異常を指摘され来院

胸部レントゲンで右の横隔膜が挙上しています。

右横隔膜の直下には肝臓との間に入り込んだ結腸のガスがあるのがわかります。

腹部造影CTの冠状断像です。

横隔膜の直下に結腸が入り込んでおり、これにより横隔膜を押していることがわかります。

このように肝臓の前〜上に結腸が入り込むのをChilaiditi症候群(キライディティ症候群)と言います。

症例 80歳代男性

こちらも腹部造影CTの冠状断像です。

肝臓が右の横隔膜を上に押し上げて挙上させている様子がわかります。

肝腫大による右横隔膜挙上と診断されました。

 

次にそもそも横隔膜とは何なのかを見ていきましょう。

そもそも横隔膜とは?働きは?

先ほど説明したように、胸腔(きょうくう)と腹腔(ふっくう)を隔てる膜状の筋肉のことを、横隔膜といいます。

横隔膜・外助間筋・内助間筋などを総称して呼吸筋といいますが、ほとんどの呼吸運動は横隔膜が収縮・弛緩によって行われているのです。

横隔膜は、呼吸運動をする働きがあるのです。

正確にいうと、

  • 安静時の吸気は、横隔膜・外助間筋が
  • 努力性呼吸気は、安静吸気時の筋に加え、斜角筋・胸鎖乳突筋などが

働いています。

 

腹式呼吸とは・・・横隔膜によって、胸郭を上下に動かし体積を増減させる呼吸法をいいます。

横隔膜の病気は?

  • 横隔膜神経麻痺・・・(横隔神経の障害・神経や筋の障害で、横隔膜の運動制限が起こる)
  • 横隔膜下膿瘍・・・(横隔膜下に膿が溜まった状態・化膿性炎症に引き続き形成される)
  • 横隔膜ヘルニア・・・(横隔膜に裂孔があるために、腹部臓器が通常の位置胸腔に脱出した状態)
  • 吃逆(きつぎゃく)・・・(しゃっくりのことで、多くは一過性・48時間以上続くものは難治性)

などがあります1)

参考文献:
病気がみえるvol.4呼吸器P  1)314
解剖学講義P225・226
イラスト解剖学 第9版P72

最後に

横隔膜について、ポイントをまとめます。

  • 胸腔と腹腔を隔てる膜状の筋のことを、横隔膜という
  • ほとんどの呼吸運動は横隔膜が収縮・弛緩によって行われている
  • 横隔膜は、胸郭下口の周囲・肋骨弓の内面・胸骨剣状突起の後面〜中心に向かっている
  • 横隔膜は、起始により、腰椎部・肋骨部・胸骨部の3部に分けられている
  •  横隔膜の病気は、横隔膜神経麻痺・横隔膜膿瘍・横隔膜ヘルニア・吃逆などがある

 

いかがでしたでしょうか?

腹式呼吸をする際に、意識して横隔膜のある位置に、手を当てることができるようになったのではないかなと思います。

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