体内に溜まる石といえば、(胆嚢に溜まる)胆石や(尿管に溜まる)尿管結石を思い浮かべる方がほとんどでしょうが、実は胃に溜まる胃石(いせき)というものがあります。

元々は体内になかったものが、胃の中で石となってしまうものです。

異物が胃の中に溜まるため、症状も出現することがあります。

今回は、その胃に石が溜まる胃石症(「いせきしょう」英語表記で「bezoar」あるいは「gastrolith」)について

  • 原因
  • 症状
  • 診断
  • 治療

など、気になる情報をまとめましたので、参考になさってください。

胃石症とは?

異物が、胃の中で石のような塊を作り溜まることを、胃石症といいます。

その胃石は元々体内に存在したものではなく、食べ物として口から摂取したものが、胃の中で溶けて消化されることなく、結石となったものです。

この胃石には、3つの代表的なタイプがあります。

  • lactobezoar(ミルクの沈殿)
  • phytobezoar(植物)
  • trichobezoar(毛髪)

などがあり1)ますが、その他の物も原因となりますので、次で詳しく説明します。

 

胃石症の原因となる異物は?

上記で挙げた、代表的な3つは、以下のような原因が考えられます。

lactobezoar(ミルクの沈殿による胃石)

粉ミルクの溶解が不十分なために起こるもので、乳児にみられるものですが、最近では粉ミルクの製造法が改善されたため、ほとんどみられることはなくなりました。

phytobezoar(植物による胃石)

植物胃石とも呼ばれ、胃石症の中で最も頻度が多いものです。

植物胃石には果物が原因となる果実胃石(opobezoar)、食物繊維が原因となる繊維胃石(iniobezoar)にさらに分けることができます。

果実胃石(opobezoar)

果実胃石の原因となるものには、

  • カボチャ

などがあります4)

中でも、植物胃石の約7割〜8割は熟す前の青い柿を食べたために、消化しきれずに褐色棒状の塊となって形成されるといわれています。

逆に同じ果物でも熟しているものを食べた場合は起こり得ない1)と報告されています。

繊維胃石(iniobezoar)

一方で、繊維胃石の原因になるものには、

  • 昆布
  • ワカメ
  • コンフリー
  • セロリ

などが報告されています3)

これらの消化不十分が原因となり胃石となります。

trichobezoar(毛髪など異食症による胃石)

  • 毛髪
  • カーペット
  • 毛布
  • アスファルト
  • 紙(トイレットペーパーなど)
  • プラスチック
  • 松ヤニ
  • 経口薬
  • ダイエット食品

など、ある特定のものが無性に食べたくてやめられずに(異食症)、消化されなかったものが胃石となり、症状に苦しむまで食べ続けてしまうといった精神的な原因が根本に考えられています。

このtrichobezoarのほとんどは女性で、80%は30歳以下で、中でも小児に多いと報告されています2)

海外ではこの食毛症により、胃の形そのままになるほどの大きさの胃石となり、摘出手術を受けた患者がいるとTVでも放送されました。

胃石症が起こるのはなぜ?原因は?

明らかな異物の丸呑み(毛髪胃石は精神疾患を有する人に多い)や、本来食べ物であっても暴食が原因になることは想像できると思いますが、そうでないケースにもこの胃石が生じることがあります。

その原因としては

  • 胃の手術後
  • 糖尿病性胃不全麻痺

といった消化管の蠕動運動が低下する病態が挙げられます。

胃の手術により、胃の運動の低下、胃酸・ペプシン分泌低下による消化作用の低下が起こることがあり、それが原因となり、胃で食べ物が停滞してしまうためです。

下で提示する症例も胃の術後でした。

胃石症の症状は?

多くは無症状ですが、

  • 嘔気・嘔吐
  • 心窩部痛
  • 口臭
  • 腹部腫瘤
  • 食欲不振
  • 体重減少

などの症状が起こることがあります。

また、胃石症患者の24〜70%は胃潰瘍を合併するため、胃潰瘍の症状も現れます2)

これは胃の内容物が通過されずに停滞するため、ガストリンの分泌が増加するために起こるといわれており、その他の合併症として

  • 穿孔
  • 出血
  • 腸閉塞
  • 蛋白漏出性胃腸症

などがあり、腹痛や下血といった症状を伴うようになります。

胃石症の診断は?

腹部単純X線検査・CT検査・上部内視鏡検査・バリウム消化管造影などを行い診断します。

X線検査

胃の内部の空気に縁取られた軟部腫瘤影が認められます。

CT検査

胃内に外部が高吸収で、不均一なスポンジ様低吸収の腫瘤として認めます。

症例 60歳代男性 胃幽門部術後

腹部単純CTで、胃内に内部に多数の空気を含むスポンジ状の腫瘤を認めています。

一見残渣のようにも見える所見です。

幽門部にmetal shadow(ペッツ) を認めており、術後とわかります。

下の内視鏡所見・問診と合わせて胃術後の植物胃石と診断されました。

内視鏡検査

症例 60歳代男性 胃幽門部術後 上と同一症例

胃内に粗大な腫瘤を認めています。

胃壁との連続性は認められず、CT所見とも合わせて、胃石と診断されました。

バリウム消化管造影

可動性の胃石は、このバリウム消化管造影によって描出されます。

胃内に陰影欠損として認められます。

胃石の表面のバリウムの付着はまだら・不均一で線状、辺縁は平滑となります2)

また胃石は可動性なため、そこが他の疾患(腫瘍)との鑑別ともなります。

胃石症の治療法は?コーラも有効?

lactobezoar(ミルクの沈殿による胃石)の場合は、水分を多く摂取することによって自然になくなります。

それ以外の胃石の治療としては、

  • 水や消化剤で胃石を溶かす。
  • 内視鏡で細片化する。
  • 手術により外科的に摘出する。

という方法があります。

また、植物胃石に対しては、コカ・コーラで胃洗浄をして改善されたという報告3)もあります。

症例 60歳代男性 胃幽門部術後 上と同一症例

上のCT及び内視鏡と同一症例です。

内視鏡下で、鰐口鉗子で胃石に穴を開け、散布チューブを押し込みコカコーラを注入。

ペースト状になったところで再度コカコーラを胃内に注入しました。

その後のフォローのCT(右側)では、胃石のサイズは小さくなり、液状になっていることがわかります。

参考文献:
1)St.Louis P651-852,1983、
2)まれな疾患の画像診断(臨床画像special)P120
3)Eur J Gastroenterol Hepatol 14:801-803,2002
4)消化管症候群(上巻)別冊 日本臨床 領域別症候群 5;448;450,1994

pediatric requisits P123
救急疾患の画像診断 P377・378
画像診断ポケットガイド 腹部Top100診断 P225
画像で見る 患者の失敗、医師の失敗P104〜106

最後に

  • 食べ物として口から摂取したものが、胃の中で溶けて消化されることなく、結石となったものが胃石症
  • lactobezoar(ミルクの沈殿)・phytobezoar(食物繊維)・trichobezoar(毛髪)が原因としてある
  • 口臭・腹部腫瘤・食欲不振・体重減少などの症状が現れる
  • 多くは胃潰瘍を合併する
  • 可動性な胃石をX線検査やバリウム造影で診断する
  • lactobezoarは、水分摂取により改善
  • phytobezoar・trichobezoarは合併症予防のためにも、胃石摘出術が選択される

 

異食症が原因となっている場合は、ただ胃石を摘出するだけでなく、原因となる精神的問題を解決することも大切です。

また、近年ではダイエット食品による胃石も報告されており、適度な水分補給も必要なのがおわかりいただけるかと思います。

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